実務とアカデミック界の架け橋を目指す
3月で大学院を修了すると同時に、4月からある国立大学の大学院(MBA)の教員に赴任することとなった。国立大学ゆえに兼業は禁止であり、現在自らが経営している会社はパートナーに任せ、私は今月末を持って代表取締役を辞任する。住いも現在の東京の家を引き払って、家族そろって大学のある地域に引っ越し、まさに心機一転新たなキャリアを歩むこととなる。
迷いがなかったと言えばウソになる。今まで積み上げてきたものをいったん放棄することへのためらいは、当然ながら大きい。ただ、それにも増してこの新たなキャリアを追求したいという思いに駆られた。なぜか。それは、大学院で過ごした時間の中で、アカデミズムの世界に存在する研究の中には、実は実務で転用可能なものが多いことに気づき(金融分野の特性ではあるが)、一方で、それらを実務界に生かす、あるいは伝達する存在が多くはないことを知ってしまったからである。その橋渡しの役目を担えるようになりたい、そのように思った瞬間、私は新たなキャリアを追求することとした。
ビジネスに携わりながら大学の客員ポストを探すという選択肢もあったかもしれない。しかし、それだとアカデミズムの世界で実績が出ない状況に陥ったとしても「自分にはビジネスがあるから」という、都合のいい言い訳ができてしまう。中途半端な形ではなく、フルタイムでどっぷりとアカデミズムの世界に浸かってこそ最先端のアカデミックな知見を身につけることができるはずで、それらを企業にフィードバックしたい。
実務を知っているだけだと陳腐化が早い
大学院において、私に期待されているであろうことは金融の実務経験、および起業経験などを通じたビジネス面からのアプローチだと思うが、それらは実務から離れるほどに陳腐化していく。したがって、常に実務者の人たちと意見交換を絶やさず、彼らに役立つ研究を行い、また、同時にアカデミックな面でもきちんとした実績を積んでいく必要がある。アカデミズムの最先端の研究を実務界に流し込むには、その最先端を常にキャッチアップせねばならない。その意味において、まだエネルギー溢れる30代半ばの転身はタイミングとしてちょうどよいのではないかと思ったりする。
大学の教員は一定期間経過するとサバティカルと言って外で研究してくる期間(通常は1~2年間)が与えられる。よくあるケースとしては海外の大学の客員研究員として赴任することである。アカデミックキャリアが始まる前からサバティカルのことを考えるのは早すぎるが、私はこの期間の一部をできれば実際の企業に勤務することに使えないかと考えている。
「最後の授業」のランディ・パウシュ教授もサバティカルを活用してディズニーに勤務していたが、あのイメージだ。幸いなことにかつて一緒に働いた同士が様々な企業で徐々に要職に就きつつある。彼らに私の意図していることの意義を理解してもらえれば、気まぐれな会社も1社ぐらい見つかるのではないかと楽観視している。