一流ほど、自分で手を動かさない

シアトルでこんなことがあった。ぼくが3か月かけてつくるつもりでいた仕組みの案を持っていくと、相手は5秒だけ考えてこう言った。

「それ、隣のチームがもう半分つくってるよ。まず話してみたら?」

結果、その仕事は2週間で終わった。

驚いたのは、彼が中身に詳しかったわけではないことだ。彼が持っていたのは知識量ではなく、誰が何を持っているかの地図だった。つくる能力ではなく、つくる前に探す執念のほうで差がついている。

借りるのは、ゴールではなくスタートライン

ただし、ここには続きがある。

気合いを入れてゼロからつくったものが、実はすでに社内にあった。そんなとき、シアトルの天才エンジニアたちの目はかなり冷たい。頑張ったこと自体は誰も褒めてくれない。彼らからすれば、それは「先人が架けたはしごを、わざわざ自分で架け直した」という話だからだ。

だから彼らのあいだには、暗黙のマナーのようなものがある。

まず、すでにあるものを探して、中身をきちんと理解する。そのうえで再利用し、必ず自分の一段を足して返す。

「ここは使えるけど、この部分はこう変えたほうがいい」
「これを土台にすれば、次はこれができる」

借りっぱなしで終わる人は、意外と評価されない。

考えてみれば、ソフトウェアの世界そのものが、この積み重ねでできている。いまスマホに入っているアプリのほとんどは、誰かが公開したコードの上に建っている。リーナス・トーバルズが自分のつくったOSの中身を公開し、世界中の誰もが読んで、直して、返せる形にした。それがLinuxとして育ち、いまや世界中のサーバーやAndroidの土台になっている。ゼロからつくり直した人が勝ったのではなく、他人のつくったものの上に、自分の一段を足しつづけた人たちが、ここまで来た。

ニュートンも似たことを言っている。

「私が遠くを見渡せたのは、巨人の肩の上に立っていたからだ」

論文検索サービスのGoogle Scholarには、いまも「巨人の肩の上に立つ」がトップページに掲げられている。借りるというのは、ラクをすることではない。先人がたどりついた場所から、自分の一歩を始めることだと思う。

重いものを、軽くする

明日からできることは、とても小さい。何かをつくりはじめる前に、30分だけ探す。そして会議で一言、「これ、誰かもうやってませんか?」と聞いてみる。それだけで、仕事の重さは変わりはじめる。

ちなみにleverをさらに遡ると、ラテン語のlevare、つまり「軽くする」にたどりつく。エレベーター(elevator)も、安堵を意味するrelieveも、同じ根から生まれた言葉だ。腑に落ちる気がした。一流は、人より重いものを持ち上げているわけではない。持ち上げる前に、軽くしている。世界一流が毎日やっているのは、たったそれだけのことだ。