課長が販売拡大を叫んだ
日本初の新商品の実態とは
藤堂課長が顧客リストを広げて腕組みし、獲物を探す猟師のような目つきでページをめくっている。
「もともと預かっとる財産の乗り換えやあかんのや。どうしても新しい資金を入れなあかん」
当時、過度な回転売買が問題化し始めていた。単なる乗り換えでは評価されない。新たな資金導入こそが正義だったが、一朝一夕で新しい顧客など獲得ができるわけがない。われわれ営業担当者への圧力は日に日に強まっていた。
「グローバル・ラップをなんとかせなあかん」
グローバル・ラップは、当時、「世界発、日本初。」という華々しい宣伝文句で売り出された新商品だった。しかし、その実態は、本格的なラップアカウントというより、投資信託を組み合わせたファンドラップに近かった。
本来のラップアカウントは、顧客ごとに資産状況や目的を踏まえて運用方針を決め、その対価として運用管理手数料を支払う仕組みである。いわば、オーダーメイドの資産運用サービスといえる。
一方、グローバル・ラップは、投資家への簡単な質問結果に応じて、あらかじめ用意された複数の投資信託を組み合わせる方式だった。問題は、その投資信託自体にも運用会社へ支払う信託報酬が含まれている点にあった。つまり、「商品全体の管理手数料」+「投資信託の信託報酬」という二重のコスト構造になっていた。本格的な資産管理サービスならまだしも、投資信託の詰め合わせなのに、管理手数料まで取られては、買い手にとって明らかに割高だ。
「本当のラップアカウントなら魅力がありますが、ファンドラップだと手数料の二重取りになりませんか?」
私がそう言うと、藤堂課長は即座に切り返した。
「そら物足りんところもあるやろ。でもな、理想の商品が出てくるまで待ってたら、俺ら営業は何も売れへんのや。今、会社が勝負をかけて出してきた商品なんや。まずは大口の資金を入れて実績を作らなあかん」
本社も本気だった。専任販売員が3人配置され、全社を挙げた販売キャンペーンが始まった。毎日のようにロールプレイングが行なわれ、グローバル・ラップを売るための営業トークが磨き上げられていく。







