俳優の東出昌大俳優の東出昌大 Photo:JIJI

「熊は人間を襲う危険な猛獣」――そう考えていた東出昌大は、山での狩猟生活を通じて、そのイメージが変わったという。自ら熊を獲ることを目指す一方、獲物の血を拭い、肉をおいしく仕上げる先輩猟師たち。命を奪う側だからこそ忘れてはならない、野生動物への敬意とは何か。東出が山で出会った猟師たちの言葉と振る舞いから考える。※本稿は、俳優の東出昌大『誰が為にか書く~東京から離れた山暮らし日記~』(扶桑社)の一部を抜粋・編集したものです。

この手で熊を獲るため
猟師として山に入る日々

「今年は単独で熊を獲る」春からそう決めていた。

 いや、この数年、ずっと目標は熊だった。

 私はあらゆる動物の肉の中で、ツキノワグマの肉が一番好きだ。群馬の師匠のところで食べた前腕を赤ワインで煮たシチューが、人生で食べた肉料理の中で一番美味かった。熊肉のもつ甘味と旨味が脳天を貫き、両腕から首筋にかけて鳥肌が立ったあの経験は忘れることができない。

 ツキノワグマの旬は冬眠に向けてドングリや木の実をたっぷり食べて脂をつけた11~12月上旬頃。11月15日は本州での狩猟解禁日。ちなみに、本州は体重120kgくらいのツキノワグマのみ生息し、その個体数は全国で推定4万2000頭前後と決して多くない。日本人が1億2300万人ぐらいいるんだから、私の肌感覚としては、ニュースで「熊ヤバい!」と騒いでる人間の方が色々なものをブチ壊しててヤバい、と思っている。

皿に盛り付けられたクマ肉のスライス皿に盛り付けられたクマ肉のスライス Photo:AFP=JIJI

「山に住んでて熊怖くないの?」はよく聞かれる質問だが、山を歩いていても、なかなか熊とは出会わない。いや、出会えない。熊は嗅覚が優れているらしく、3km先の匂いも嗅ぎ分けられると言うが、猪だって鼻は良い。