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なぜZoomは、無料版の会議を「40分」で終わらせるのか?Photo: Adobe Stock

使ってもらいたいのに、なぜ途中で切るのか

 Zoomの無料プランで会議をしていて、途中で終了間際の表示が出て慌てた経験がある方もいるでしょう。

 無料プランのミーティングは40分で終わります。以前は1対1なら時間無制限でしたが、2022年5月からは1対1にも40分の制限がかかるようになりました。有料プランなら、1回のミーティングを最長30時間まで続けられます。

 利用者を増やしたいなら制限などないほうがよさそうですし、有料版を売りたいなら「無料は10分まで」とすればいい気もします。なぜ40分なのでしょうか。

 販促の視点で見ると、この40分という長さには理由があります。

「ふつうに使うには十分。でも、仕事でしっかり使うと少し足りない」。ちょうどその境目に、区切りが置かれているのです。

10分では、良さが伝わる前に終わってしまう

 仮に無料版が10分だったとします。参加者がそろうのを待ち、あいさつをして、資料を画面に出したあたりで終わってしまうでしょう。それでは「Zoomって便利だな」と思う前に、「これじゃ使えない」という印象だけが残ります。

 無料版の一番の役目は、商品の良さを実際に体験してもらうことです。40分あれば、画面共有をしながら一つのテーマを話し合うくらいのことは十分にできます。

不便を感じるのは、使い込んでから

 ところが、使う回数が増えてくると、40分の受け止め方が変わってきます。

 社内の会議、取引先との打ち合わせ、研修、採用面接。仕事で使う場面が増えるほど、「あと10分あれば」「質疑応答まで終わらなかった」ということが起きてきます。

 ポイントは、不便さを感じるタイミングです。

 使い始めの段階ではなく、便利さが分かって頻繁に使うようになってから、制限が気になり始める。まだ良さを知らない人に「有料版なら長く使えます」と言っても、あまり響きません。

 でも、仕事に欠かせなくなった人にとっては、「途中で切れない」というだけで、お金を払う理由として十分です。

人数が多いほど、切れたときの手間は大きい

 1対1なら、切れてもかけ直せば済みます。でも10人の会議だとそうはいきません。

会議が切れる
 ↓
全員が入り直す
 ↓
そろうのを待つ
 ↓
話を再開する

 参加者全員に手間をかけさせることになりますし、お客様との商談や有料のセミナーで「無料版なので一度切れます」とは言いづらいものです。

 仕事で本格的に使う人ほど、制限を外す価値が大きくなる。使い方に応じて、自然と有料版を考えるようになる料金の決め方だといえそうです。

比較表より、体験のほうが説得力がある

 多くの会社は、無料プランと有料プランの違いを比較表で説明します。

 ただ、表を眺めただけでは、その機能にお金を払う価値があるかどうかは、なかなか判断できません。

 Zoomの場合は、会議中に終了間際の表示を見た瞬間、時間制限がないことのありがたさを身をもって感じます。営業担当者が説明しなくても、無料版を使っていること自体が有料版の説明になっている。ここがよくできているところです。

 もう一つ、有料版の価値が「何かが増える」ことより「困りごとがなくなる」ことにある点も見逃せません。新しい機能の説明よりも、「いま困っていることがなくなります」のほうが、人は必要性を感じやすいものです。

「有料にする人」は、不便をなくしたい人

 有料版を契約する人は、必ずしも新しい機能が欲しいわけではありません。

 毎週取引先とオンラインで商談している人なら、「途中で切れる心配がない」こと自体が仕事の安心になります。

 社内研修を開く人なら、時間を気にせず質疑応答までできることがありがたいでしょう。同じ「時間制限なし」でも、使う人の仕事によって価値の中身は変わります。

 だからこそ、「長時間使えます」と説明するより先に、無料版で「時間が足りない」を経験してもらうほうが効果があります。自分の困りごとと結びついたとき、機能はようやくお金を払う理由になります。

無料で満足されすぎても困る

 無料サービスを作るときに、「無料でも喜んでもらいたい」と思いすぎると、無料版だけで用が足りてしまいます。そうなると、有料版に進む理由がなくなります。かといって、不便すぎれば誰も使ってくれません。

 商品の良さは十分に味わえるけれど、本格的に使う人ほどもう一歩先が欲しくなる。40分という長さは、ちょうどその境目に引かれた線です。

他のお店でも使える
「十分使えるが、使い込むと有料が欲しくなる」しくみ

・スクールや教室
 体験講座で実際の授業と同じ内容を体験してもらい、「分かった」と感じるところまでは届ける。そのうえで、「自分でできる」ようになるには継続講座が必要、という設計にする。

・コンサルティング
 無料相談でも問題点と改善の方向性まではきちんと伝え、自社に合わせた作り込みや実行の支援を有料にする。

・写真や動画のサービス
 無料でも作品は作れるようにしつつ、保存容量や高画質での書き出しに制限を設ける。

まとめ

 この仕組みのポイントを整理すると、

・無料版でも実際に会議ができ、まず便利さを体験してもらう
・使い込んだ頃に気になる位置に、制限の線を引く
・「途中で切れる」不便を体験してもらい、制限がないことの価値を分かりやすくする
・使う回数や参加人数が増えるほど、有料版の価値が上がるようにする
・有料版の必要性を、説明ではなく体験から気づいてもらう

 といった狙いが考えられます。無料版を使いにくくするのではなく、しっかり使ってもらったうえで、本気で使う人だけが、有料版を欲しくなるところに線を引いておく。

 40分という数字には、そんな計算があるのではないでしょうか。

岡本達彦(おかもと・たつひこ)
販促コンサルタント
現場目線ですぐ使えるマーケティングを伝える第一人者。
広告制作会社時代に100億円を超える販促展開を見て培った成功体験をベースに、むずかしいマーケティングや心理学を使わず、
アンケートやマンダラ等を活用して、誰でも売れる広告を作れる手法を体系化する。
業界を問わず即効性が高く、お金をかけずに売上を上げられることから、全国の商工会議所・経済団体などからセミナー依頼が殺到する。
初の著書『「A4」1枚アンケートで利益を5倍にする方法』(ダイヤモンド社)は、Amazon上陸15年、「売れたビジネス書」50冊にランクインする。
他の著書に、『お客様に聞くだけで「売れない」が「売れる」に変わるたった1つの質問』
『あらゆる販促を成功させる「A4」1枚アンケート実践バイブル』
『「A4」1枚チラシで今すぐ売上をあげるすごい方法』『「マンダラ広告作成法」で売れるコピー・広告が1時間でつくれる!』(以上、ダイヤモンド社)等がある。