しかし、それだけのお金を使っても、サービスの対象となるユーザーに効率的に声が届いていたかというと、必ずしもそうではありませんでした。また、広告宣伝費がないために、あるいは広告費を使いすぎて、消えていったベンチャーも多かったと思います。

 ところが現在は、TwitterやFacebookなどのSNS(ソーシャルネットワークサービス)が登場したことによって、お金をかけずに広告宣伝ができるようになりました。

 起業家やメンバーに「フォロワー」や「友達」がたくさんいれば、広告を打たなくても商品やサービスの情報が一気に広まります。しかもそのメッセージは自由に変更できて、何度でも発信することができる。昔のベンチャーでPRに苦労した身としては、夢のような環境です。

 極端な話をすれば、いまIT系で価値ある商品・サービスをつくれたら、少なくともスタート時に宣伝広告費は必要ありません。起業家の「友達」が中心になってウェブ上で広めてくれます。しかも、そのサービスを使いそうな人、好きになりそうな人に自動的に。

 例を出しましょう。ネット上の旅行サービスtrippiece(トリッピース)は、Facebookでカバー写真にしたいような世界中の美しい写真を毎日アップするサービスを続けていました。するとある写真が「いいね!」を16万も押されて、250万人にリーチしました。その後、1人当たり30万円するマチュピチュ旅行を企画したところ、300人の申し込みがありました。これだけで9000万円の流通総額です。

 逆に言えば、SNSで評価されないサービスは成功もしにくいということです。ビジネスが成功するかどうかが一瞬でわかってしまいます。起業家や僕らは、そうした反応を見ながら、随時方向性を修正していくことになります。

 当然の結果として、最近の起業家は積極的にブログやFacebookで発信し、自分や会社のファンを増やそうとしています。しかし「友達」や「フォロワー」が鍵になるということは、その人の評判や信用が、昔以上に重要になったということです。

起業にかかるお金は「6分の1」になった

 SNSが変えたのは、PRだけではありません。求人方法も劇的に変えてしまいました。

 昔はベンチャーが人材を集めるのは、本当にむずかしかったのです。当時はベンチャーやITにうさんくさいイメージがあったし、そもそも存在を知ってもらえませんでした。

 でもいまでは、TwitterやFacebookに、「こういうサービスをつくったので、いっしょに働きませんか」と書き込んだことで、良い人が採用できたというケースが増えています。Twitterのタイムラインに「プログラマー募集」などと書かれているのを見たことがある人も多いでしょう。

 先ほど話したように、いまでは起業家やサービスの情報がウェブ上で拡散されているので、そういった人材募集の書き込みに反応する人は相性が良い傾向まであります。

 また、SNSの充実に対応した求人サービスもたくさん出てきました。僕らが出資しているソーシャルリクルーティングや、WishScopeを運営するザワットなどです。それぞれの求人サービスにも個性があるので、使い分けることで求めたい人材に効率よく会うこともできるようになりました。

 会社を経営する限り、人材についての苦労がなくなることはありませんが、少なくともお金も手間もどんどんかからなくなっています。

 最後に参考までに、2000年頃、投資家がスタート時のベンチャーに投資する金額は3000万円くらいだったそうですが、いま僕らが投資する額は平均して500万円くらいです。その点から見ても、起業にかかるお金は6分の1くらいになっていると思います。

【著者紹介】
榊原健太郎(さかきばら・けんたろう)
1974年生まれ。名古屋市出身。株式会社アクシブドットコム(現VOYAGE GROUP)創業期において営業統括として、営業本部の立上げ、営業販促戦略、広告商品開発、アライアンス戦略に取り組む。その後、インピリック電通(現 電通ワンダーマン)にて、大手情報通信・飲料メーカー・金融会社のダイレクトマーケティング戦略に従事。その後、株式会社アクシブドットコム(現 VOYAGE GROUP)に復帰、営業統括として、西日本広告販売ブランチの立上げ、営業本部の再構築、モバイルサイトの立上げに従事。2008年にシード・アーリー ベンチャーの経営・マーケティング・営業・人事・財務・CI戦略支援に特化した株式会社サムライインキュベートを設立し代表を務める。スタートアップのベ ンチャーに投資するとともに、60社程のベンチャーの社外取締役を兼務している。

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