コワーキングスペース、シェアハウスの利用が活発に
もう1つ大きく変わったのがオフィス事情です。10年ほど前までは、IT系の企業というだけで「危ない」「あやしい」というイメージをもたれていたので、そんな逆風を跳ね返すためにも、起業家はオフィスや立地にこだわりました。その結果の選択が、渋谷や六本木だったのかもしれません。そこまでいかなくても、都内でオフィスに使えるマンションの一室を借りたら、安くても月々10万円は必要でした。まだ収益の上がっていないベンチャーにとっては大きな痛手です。
しかし、いまはそんなことを気にする必要はありません。多くの人がネットで情報を得て、モノを買い、コミュニケーションを楽しんでいます。IT系企業のイメージもとてもポジティブになりました。
オフィスがどこにあっても、取引先から敬遠されることはありません。どのようなビジネスをしているのか?どんな人が起業したのか?周りにいるのはどんな人か?そういった本質的な点で判断してくれるようになりました。
かつては必須のアイテムだった固定電話も、起業時には不要という人も出てきています。ダイレクトにつながる携帯電話を好む人は多いし、そもそも電話番号を連絡先としてサイトに掲載しない企業も増えてきました。実際、ノートパソコンとモバイルのルーター、携帯電話だけで起業している人もいます。
その助けとなるのが、第1回でも紹介したサムライスタートアップアイランド(SSI)のようなコワーキングスペースです。
コワーキング(coworking)スペースとは、文字通り「一緒に働く」という意味で、さまざまな立場・職業の人たちが一緒に仕事をする場所のことです。席はフリーアドレスで、月額数万円の使用料を払えば、24時間いつでも利用していいというシステムのところが多いようです。もちろん法人契約もできますし、登記の住所にもできます。最近では、コワーキングスペースからスタートを切るベンチャーが増えてきたことから、注目をあびています。
こうした動きは世界的なもので、ニューヨークやサンフランシスコにスペースをもつDogpatch Labsは、Facebookに約10億ドルで買収された写真共有サービスのインスタグラムが誕生したコワーキングスペースとして有名です。
SSIのようなコワーキングスペースは、東京にはすでに40以上ありますし、札幌市のGarage labs(ガレージラボ)、仙台市のcocolin(ココリン)、長野県伊那市のDEN(デン)、名古屋市のMYCAFE(マイカフェ)など日本全国に100ヵ所くらいあります。自治体がコワーキングスペースを用意し、起業家を支援するケースも出てきました。
ちなみに、シェアハウスの利用も活発になっています。起業家同士が共同で部屋を借りるケース、創業者と社員で部屋を借りる事務所兼社宅のようなケースなどさまざまです。サムライ軍団では、3分の1のメンバーがシェアハウスを活用しています。
起業家をしばるものは、どんどん少なくなっていますが、オフィスはその象徴のように思えます。
ソーシャルネットワークが起業を手軽にした
起業にお金がかからなくなったことにも通じますが、起業が別の意味でも「手軽になった」ことをぜひ知ってください。
以前はIT系のサービスを立ち上げたら、リアルとネット双方のさまざまな媒体に広告を出して、ユーザーを集めるのが普通でした。とにかくユーザー数が事業成功のポイントなので、どんな企業も広告宣伝費はたくさん使いました。たとえば2000年頃のアクシブでは、毎月数千万円の広告宣伝費を使っていました。そうして集めたユーザーに合う広告をクライアントから取ることで収益を上げていたのです。