次に、競争優位性について考えてみます。表面的な“強み”と本質的な“競争優位性”は似て非なるものと正しく理解する必要があります。たとえば、表面的な強みと本質的な競争優位性とを混同し「自社の競争優位性は、優秀なエンジニアがいることです!」と言ってしまうのはスタートアップが陥りがちな罠です。
まず一つには、“優秀なエンジニア”というのは極めて相対的であり、“上には上がいる”ことが多い領域です。ある言語そのものを開発してしまっていたり、エンジニアコミュニティの中で神のように崇められていたりする人材がいるのであれば話は別ですが、前職が大手ネット企業だったエンジニアがいるというだけで競争優位性だと思ってしまうのは甘すぎます。競争優位性は、競争を左右し得るほど、競合に対して明確に優位である必要があるのです。
さらには、その競争優位性を持続できるかどうかが重要です。仮に今の時点でスーパースターエンジニアがいたとしても、その人が辞めてしまった途端その優位性が失われてしまうといった危うい状況では競争優位性とは言えません。たとえば、そのスーパースターエンジニアが創業者の一人で、キーメンバーとして夢や想いを共有し、しかも経済的にも相応の手金を出資しており株式も持っていて、コミットしている場合はある程度持続可能と言えるでしょう(そのエンジニアの持っているスキル自体が時代の流れから取り残されてしまうリスクは残りますが)。
または、構造的に競争優位性を持続させるというのも一つのやり方です。たとえば、優秀なエンジニアを排出することで有名な研究室とエクスクルーシブで提携や自社でエンジニアコミュニティを運営することで、継続的に優秀なエンジニアを確保できる仕組みを構築するといったことです。あるスーパースターに依存するよりも、仕組みとして担保するほうが、その安定度、規模化のさせやすさにおいては、より望ましいと言えるでしょう。
ただし、インターネットを中心とした最近の事業環境の変化の速さ鑑みると、何十年にもわたって持続可能な優位性を作り上げるのは不可能に近いでしょう。常に外部環境の変化に敏感にアンテナを立て、その時々で何がより優勝劣敗に効くのか、自社の競争優位性の賞味期限はまだ残っているかを見極めながら、その環境に合わせて競争優位性をリニューアルしていく組織能力こそが競争優位の根っこにある源泉と言えるでしょう。