次に、自社ならではのユニークさを生みだし、戦略で競合に差をつけるためには、自社の強み、すなわち資産をレバレッジすることを考えてドメインを設定することが重要です。たとえば、ガラケー時代からCP事業を展開しており膨大な女性ユーザをすでに蓄積しているのであれば、スマホにおいても女性向けのアプリを展開し、自社のガラケーユーザーをスマホに誘導できるという強みを大いに活用できます。なので、ドメインの絞り方としても、“女性向けのスマホアプリ”とするのが自然です。その際には、自社のユーザ資産が活きない男性向けのアプリにまで、むやみに広げることは得策ではありません。また、アプリの種類、つまりネイティブアプリか、ウェブアプリかなどを切り口としてドメインを絞ることにも意味はありません。逆に、自社にアプリに関する技術的な資産が蓄積しているということであれば、アプリの種類による絞り込みに意味が出てきます。
では、自社が活用すべき資産=ドメインを絞る時の視点としては、どのようなものがあるか挙げてみたいと思います。
1. ユーザ
先ほどのガラケーで蓄積した女性ユーザをスマホに流し込むという例におけるように、特定のユーザ層を囲い込んでいる場合、そのユーザ層を異なる事業やサービスに誘導することで、いきなりスタート時から先行スタートを切ることができます。また、自社ユーザに、別の商品やサービスを売るクロスセルをすることで、顧客獲得の費用を最小化したまま、同じ顧客基盤から追加収益を上げることができます。
2. テクノロジー
先ほどのアプリの種類(ネイティブ vs ウェブ)や開発言語などがこれに当ります。特定のテクノロジーにフォーカスし、さらにはコードのライブラリやエンジンなどの使いまわしの効く形で有形化していると、資産の価値はより上がります。特定のテクノロジーに集中して資産を蓄積することで、難易度の高いサービスを実現したり、開発を効率化したりすることができます。
3. ノウハウ
ノウハウは特定領域における知見の蓄積という意味では、テクノロジーと同様ですが、より形式知化しづらいものになります。継続的にカイゼンを進めていき効率的なオペレーションを構築するノウハウ、アプリやサービスの企画力、特定のユーザセグメントを熟知していることによるユーザ・ノウハウ、ウェブ上でのマーケティング・ノウハウとしてのSEOなどがこれに当たります。“人につく”暗黙知的な側面が強いものなので、徒弟制度的なチームの組み方で、いかに組織内において人から人へと広めていくかがカギになります。
4. データベース
インターネット時代になりすべてのログをデータとして蓄積することが可能となり、また処理能力的にも膨大な量のデータを解析することが可能となった今、ユーザ属性、行動履歴、コンテンツ・ライブラリなどのデータベースは宝の山です。その膨大なデータを分析することで、自社の売上やサービスを伸ばすための示唆を統計的に得ることができますし、またそのデータや示唆を外販することも可能です。
5. チャネル
同じチャネルを通じて、複数の自社のプロダクトを流通させることも大きな強みとなります。典型的にはB2Bの事業に多く見られます。たとえばパッケージソフトを販売する場合、システム・インテグレータなどのチャネルパートナーと契約し、自社製品の販売、導入、アフターサービスをしてもらうことになります。その際、すでにパートナーによる代理店網を構築していれば、異なる製品を販売する際にゼロから代理店を開拓する必要はありません。 B2Cの事業で、ユーザに直接製品を販売する事業の場合、一般的にはチャネルという資産はレバレッジしにくいのですが、たとえばアプリ事業で、AppleやGoogleのApp Store、DeNAやFacebook、GREEなどのプラットフォームと特別な関係を構築しており、通常以上に“アンフェアな”プッシュをしてもらえるなどがある場合は、大いに活用できる資産と言えるでしょう。
まとめると、自社の強みを活かすことができる形でドメイン設定をすることそのものが、そのドメインで戦い始めた瞬間いきなり競合に対して優位に立つことに繋がるのです。