7月12日に総務省が公表した2012年の就業構造基本調査によると、派遣やパートで働く非正規雇用者の数は2042万人に上り、20年前の調査から倍増しているという結果になっています。こうした組織に属さない労働者は、日本では労働条件の低さが問題視されるケースが多く、社会的地位も低く見られがちですが、アメリカでは組織に属さず独立した形での働き方が市民権を得ています。社会構造、雇用環境が異なるとはいえ、今後も日本では非正規雇用が増えていくのは明白です。ではそのような社会でいかにして自分の働き方を見つけていくのか。今回の一冊は全米でも大きな話題をさらった『フリーエージェント社会の到来』です。

自分の知恵を頼りに独立しながら社会とつながる
「フリーエージェント」という生き方

「フリーエージェント」と聞いて、大方の日本人が思い浮かべるのはプロ野球における「フリーエージェント(FA)制」でしょう。一定の条件を満たしたプロ野球選手にはFA権が与えられ、この権利を取得した選手はフリーエージェントと呼ばれます。フリーエージェントは、いずれの球団とも自由に契約を結ぶことができます。

ダニエル・ピンク著、池村千秋訳、玄田有史解説『フリーエージェント社会の到来』
2002年4月刊行。帯には、トム・ピータース、セス・ゴーディンによる推薦も。

 本書『フリーエージェント社会の到来 「雇われない生き方」は何を変えるか』の著者であるダニエル・ピンクが描くところのフリーエージェントはしかし、プロ野球選手とは一切関係ありません。本書の解説を担当した玄田有史・東大助教授(=当時、現在は同大教授)によると、「インターネットを使って、自宅でひとりで働き、組織の庇護を受けることなく自分の知恵だけを頼りに、独立していると同時に社会とつながっているビジネスを築き上げた」人々のことを指しています。

 なにより、著者のダニエル自身が米上院議員の経済政策担当補佐官や労働長官補佐官、副大統領の首席スピーチライターなどを務めたあと、「もう二度と勤め人にはならない」と決意してフリーエージェントを宣言した当事者なのです。

 大組織に縛られることなく、自分の未来を自らの手で切り開くフリーエージェントたちは、アメリカの労働者の新しいモデルになりはじめている。自由きままな独立した労働者が経済の新しいシンボルになりつつある。テクノロジーに精通し、自ら針路を定める独立独歩のミニ起業家たちが登場したのだ。
 数字を見てみよう。実は、いまフォーチュン上位五〇〇社の企業に勤めるアメリカ人は、一〇人に一人もいない。アメリカ最大の民間の雇用主は、デトロイトのゼネラル・モーターズ(GM)でもなければ、フォードでもない。マイクロソフトでも、アマゾン・ドット・コムでもない。全米に一一〇〇を超す支部をもつ人材派遣会社のマンパワー社だ。いまのアメリカの若者の夢は、組織の中で出世することではない。若い世代は、そもそも会社に就職することすら望まない場合もある。それよりも、主にインターネット上で自分の好きなやり方で仕事をやってみたいと考えている。(10ページ)

 いまの映画産業は、かつてとはまるで違う仕組みで動いている。特定のプロジェクトごとに、俳優や監督、脚本家、アニメーター、大道具係などの人材や小さな会社が集まる。プロジェクトが完了すると、チームは解散する。その都度、メンバーは新しい技能を身につけ、新しいコネを手に入れ、既存の人脈を強化し、業界での自らの評価を高め、履歴書に書き込む項目をひとつ増やすのだ。……このハリウッド・モデルが、要するにフリーエージェント・モデルなのである。大勢の個人を常に戦力として抱える固定的な大組織は、戦力が常に入れ替わる小規模で柔軟なネットワークに取って代わられようとしている。(14ページ)