気鋭のベンチャーキャピタリストが、スタートアップのための戦略論を説く連載の第6回。今回は事業ドメインを設定した次に行う「事業機会の特定」と「プロダクトの開発」の要諦について解説します。経営のセンスが問われる段階ですが、過去のスタートアップの失敗から学べることが少なくありません。

 ドメインを設定したら、次はいよいよそのドメインの中で具体的な「事業機会」を特定し、それに突き刺さる「プロダクト」の開発です。
注意すべきは、どのような粒度(細かさ)でドメインを設定しているかによって、事業機会の炙り出され方、大きさも変わってくることです。だからこそ、前述の通りドメインの設定は戦略策定のクリティカルに重要な部分であり、経営のセンスを試されるアートの部分なのです。たとえば、「スマホ」全体とするか、またはテクノロジーの軸で「スマホのネイティブアプリ」とするか、さらにはコンテンツのジャンルで「スマホのエンタメアプリ」とするか、で事業機会も大きく異なります。

 事業機会をプロダクトへと結実させていくプロセスは、いわば「マーケット・イン=ユーザの視点」と、「プロダクト・アウト=開発者の内なるクリエイティビティ」との、行ったり来たりを繰り返し、最適解としてのプロダクトに合わせ込みにいく作業です。
どちらが先か、バランスの中でどちらが強いかなどは企業の得手不得手、スタイルの問題ですが、どちらか片方だと、プロダクトを出した後、こんなはずじゃぁなかったのに……と失敗をすることになります。

事業機会の特定

 事業機会を特定することが、すべての始まりです。事業機会とは、「誰の」「どんなニーズ」をターゲットにするかを洗い出すことに他なりません。

誰の:ユーザ像の尖鋭化する必要があります。『F1、F2の女子』などという形式的なレベルではなく、本質的に意味のあるニーズの切り口で、しかもそのユーザ層がある均質性が維持される形で定義する必要があります。たとえば、『F1、F2の女子で、学校や会社で友人や知り合いは多いが、リアルの知り合いには吐露できない本音や悩みを抱えている層』のような形で研ぎ澄ますことが必要です。

どんなニーズ:前述のような形でユーザ像を尖鋭化することで、彼らの根源的な欲求、ニーズを明確な形で炙りだすことができます。前述の例だと、ただ『つながりたい、話を聞いてほしい』というよりは、『自分で抱えきれない本音や悩みを吐き出し、気を楽にしたい。解決策を求めているというより、聞いて貰って、受け入れてほしい。』というようなレベル感です。

 このような形でユーザ像とニーズを浮き彫りすることで、また逆にしないと、具体的なプロダクトに落とし込むことができません。

 では、どのようにユーザ像とニーズを研ぎ澄ますか?
 まずは、開発者が普段からその領域を見ていることから生まれてくる内なる仮説でよいので、こんなユーザに、こんなニーズがありそうだというのを出します。そして、その仮説を検証すべく、今度はユーザにあたることが重要です。

 その際に気をつけるべきは、ユーザに短絡的に「これは欲しいですか」「これに困っていますか」という質問をすると、「(ないよりあったほうがよいから)欲しい」と言った回答をこちらから誘導してしまいます。また、ユーザに質問する形だと、ユーザ自身が気づいていないニーズを焙り出すことはできません。多くの場合、そのようなユーザ自身も気づいていない所に大きな機会があるものです。そして、ユーザは必ずしも、意識的、合理的でなく、今までの習慣や惰性で行動したり、多少使い勝手が悪くても自分自身をモノに合わせていたりします。

 プロダクトの開発者としての腕の見せ所は、ユーザのモノの使い方を徹底的に観察して、そのモノがユーザの真のニーズに合致した価値を提供しているか、そしてその価値が最も感じられる形でユーザに届けているかを、開発者として“洞察”することです。開発者はユーザの御用聞きになってしまってもダメですし、独りよがりになってもダメです。開発者は、ユーザを洞察し、自らのオリジナルの価値を乗せて、ユーザのニーズを最も純粋な形で炙り出すのが役割なのです。