「市がやっている仕事や予算をこれから地域にどんどん切り分けていきます。楽しみにしてちょうよ」
河村たかし名古屋市長がマイクを握ると、会場内の雰囲気は一変した。緊張ぶりを隠せずにいた各候補の表情も緩み、明るい笑顔が広がっていった。2月21日の午後、中川区豊治コミュ二ティセンターで開かれた地域委員会の立候補者による公開討論会でのことだ。一般席で各候補のアピールに耳を傾けていた河村市長は、会場に詰めかけた住民全員に向かってこう言葉を続けた。
「皆さんが決めることに一番、価値があります。減税分が地域の公益活動に(寄付金として)集まるように仕組みを整備していきます」
市民税10%減税で懐に戻ってくるカネを公共のために寄付してほしいと訴えたのだ。
名古屋全域が今、自治の熱気に包まれつつある。河村市長による「庶民革命」が着々と進行し、りょう原の炎となって広がっている。何やらとてつもない変化が生まれそうだ。地域委員会の発足と4月からの市民税10%減税の実現。そして、議会改革に向けた大胆な動きである。河村市長の三大公約で、ワンセットとなったものだ。
地域委員会とは、地域の課題を解決するために投票で選ばれた委員を中心に市の予算の一部の使い道を決める、住民自治の新しい仕組みである。昨年末の市議会で8つのモデル地域での先行実施が認められた。地域委員は公募と推薦の2種類からなり、いずれも投票で選ばれる(公募は選挙、推薦は信任投票)。
任期は2年で2期まで。報酬はなく、交通費などの実費弁償として月額2000円程度が支給されるだけ。地域のボランティア議員である。8つのモデル地域の委員定数(7人から11人)は人口比によって決められ、公募委員の総数は40人。推薦委員の総数は32人となっている。今回、公募委員に64人が立候補し、倍率は1・6倍。
公募・推薦委員の立候補者による選挙活動が2月22日まで行われ、8地域で公開討論会が開催された。選挙は、事前登録した18歳以上の地域住民による郵便投票方式で、締め切りは26日。翌27日に開票され、3月中に地域委員会は正式スタートする。昨年4月の市長選の公約がモデル地域限定とはいえ、早くも実現する運びとなっているのである。