円安の勢いが弱まったことなどを受け、市場では日本銀行の物価目標達成が難しいとの声が主流になった。

 円安傾向が続き、将来の物価上昇の蓋然性が高かった4月や5月などに国債を大量に売却した投資家は、アベノミクスによるリスクマネーの活性化が確信できれば、リスク資産を購入しポートフォリオリバランスを積極的に行う予定だった。物価上昇に伴い長期金利が上昇するようであれば、金利上昇局面において債券を買い戻し、債券ポートフォリオを再構築しようと考えていた。

 しかし、安倍政権の親ビジネス的な政策がやや踏み込み不足となる中、投資家はリスクマネー活性化を確信できず、また物価目標達成が遠のいたことで日銀の金融緩和政策が長期化するリスクも高まった。投資家の資金は国債市場に回帰し、0.75%程度であった10年債利回りの中心レンジは0.6%台へと下方シフトした。

 このような状況下、円金利市場では二つの特徴的な動きが見られている。日本国債20年-5年・スプレッド(利回り格差)は、急速に縮小している。これは20年債利回りの急低下によってもたらされた。また、5年や10年の国債-スワップ・スプレッドに注目すれば、マイナス幅が縮小しており、これは国債よりスワップ金利の低下のペースが速いことを示唆している。10年債利回りの低下ばかりがフォーカスされやすい中、実際には5年債や10年債の利回りよりスワップ金利や20年債利回りの低下の幅が大きいのだ。

 これら二つの動きの背景には共通のものが存在する。それは投資家が「国債を大量に買い越せない」ことである。日銀は毎月の国債発行額の7割近くを買い続ける政策を継続しているが、ここで投資家が日銀と同様に大量の中長期債を購入しようとすれば、需要が供給を極端に上回ることになり、中長期債の利回りは急激に低下すると考えられる。