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「デジタルな日常」を生きる

新型iPadの発表でわかった
「デバイス」進化の(ほぼ)打ち止めと、
「やること」を届けるアップルの姿勢

松村太郎 [ジャーナリスト・著者]
【第6回】 2013年10月30日
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体験を共有するブランディング

 昨今のアップルのプレゼンテーションでは、これまでのデバイスの「何倍のスペック」という表現が多い。iPad AirとiPad miniは、2010年に登場した初代iPadの性能の8倍、グラフィックスは72倍だと誇らしげに披露する。ハードウェアのメーカーなので、こうしたアピールは必要な要素といえるかもしれない。あるいは他社を刺激するには十分だし、アップルのプレゼンテーションを見続けてきた人たちにとっては、つまらないアピールにも映る。

 ただその裏に隠れたメッセージとして、アップルはデバイスメーカーでありながら、デバイスの性能で競うという土俵での勝負から離脱しようとしていることもまた、見逃すことができない。アップルはハードウェアのメーカーとして、そのデバイスを購入して開封した状態で、どんな体験を提供できるかにこだわっているのだ。

 例えばiPadなら写真の管理や編集、ビデオ編集も良いだろう。Macにしても、あらかじめ無償でダウンロードしておくことができるアプリ群で、タブレットやパソコンに初期に求める「やりたいこと」を満たせるようにしている。デバイスによる原体験を作り出すアプリとしてiLifeとiWorkを位置づけ、無料で提供しているのだ。

 アップルのプレゼンテーションでは、どれだけの多くの人に自社製品が利用され、具体的な事例を挙げて自社製品が使われる様子を見せる。またアップルストアは、より多くの人に対して自社製品を触ってもらう場として設定し、iPhone、iPad、MacBook Airなど手に取らないとわからない価値を伝える重要な手段としてきた。

 今度はそうした製品で何ができるかを伝える新しい手段が必要であり、その最も効果的で素早く広がる方法は既にデバイスを手にしている人々が自分がやっていることや、出来上がった作品を共有してみせることだ。iPadやMacで編集された写真やビデオ、ドキュメントが周囲の人の目に触れる度に、アップルのブランド価値が高まる。

 ユーザー自身にブランドを語らせる巧妙なマーケティングの仕掛けが果たして上手くいくのか。あるいはその手法がきちんとハードウェアの売上げを伸ばすことになるのか。そして今後のコンピュータの未来をどのようにデザインしていくのか。様々な角度から、今後のアップルの展開には注目していきたい。

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松村太郎
[ジャーナリスト・著者]

まつむら・たろう/1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「スマートフォン新時代」「ソーシャルラーニング入門」など。

「デジタルな日常」を生きる

スマホ、SNSなど、毎日の暮らしに欠かすことのできなくなったネット環境とデジタルツール。その一方で、セキュリティやプライバシーの問題、ツールへの依存、ネットコミュニティとの関わり方など、日々新たな問題が現れ、状況は変化している。私たちは「デジタルな日常」をどう生きていけばいいのか、米国シリコンバレー在住の記者が、生活者の目線で解説する。

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