衛生的な高所得国という環境はアルツハイマー病(AD)の発症リスクになる──。先月、英国の公衆衛生学専門誌にこんな研究報告が載った。ケンブリッジ大学の研究から。
現在、世界では7秒に1人の割合で認知症患者が増加している。その主要因はADで、認知症全体の40~60%を占める。研究者らは、極端に清潔な環境がある種の疾病を誘発するという仮説の一環でADに着目。アレルギーや自己免疫疾患と同じく、AD発症にも清潔な環境が関連するとして、世界192カ国で細菌やバクテリアなど微生物への暴露状況とAD発症との関連を調べた。
その結果、所得が高く都市部が発達し、衛生状態がよい国では、ADの有病率が有意に高いことが判明したのだ。
例えば、全国民が清潔な水を利用できる英国やフランスは、半分にも満たないケニアやカンボジアに比べ、AD有病率が9%高い。また、感染症が少ない国──スイスやアイスランドでは、感染症が多い中国やガーナより12%もAD有病率が高かった。
AD発症と強く関連するのは、上下水道など衛生設備、感染症、都市化のレベル。一つでもAD増加につながるが、これらの要因が重なると相乗効果で最大42.5%もの違いが生じるという。
衛生環境とAD発症との関連について研究者は、「土や動物を通じた微生物への暴露が減り免疫への刺激が失われた結果、免疫活性が弱まって免疫の尖兵である“T細胞”を十分に作り出せなくなる。このT細胞の欠損は、AD患者の脳でよく見られる炎症反応と強く関連する」としている。また、これ以前の研究では、同じ国でも地方より都市部でAD有病率が高いことが示されている。さしずめ東京なぞはAD発症の温床、ということになるのだろう。
衛生的な環境や都市化がイコールAD発症リスクというのは短絡的に過ぎるが、免疫系の異常に限らず、運動不足や暴飲暴食など先進国の環境にはAD誘因が多いことは確か。時には額に汗して畑作り、なんて生活をするとAD予防につながるかもしれない。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)