永井 ある日系企業のファイナンスの方が、ビジネスのサポートになるようなファイナンスの仕事をしたいんだけど、そのビジネスのことをそれほど知らないのでなかなか難しいと悩んでいました。例えば、投資案件。事業部側としては大きなチャンスだと思うわけですが、ファイナンスの観点からみるとNG。そのビジネスを深く理解しないままに下手に断れば「また断られた」と思われてしまい、事業部との距離が広がってしまう。それは事業部側にとっても同じようにファイナンスのことが分からないから歩み寄れない。自分が持っている武器と相手の武器をつなぐという、ファイナンスの人にはヒューマンスキルが必要なんだと思うようになりましたね。

梅田 そうですね。やはりビジネスの現場で何が起こって知らないといけないと思います。事業部の方から相談されたときに、一般論で話してもなかなか信頼関係は築けないと思います。

 私は1日の時間で、だいたい80%がミーティングの時間です。これは経営会議や製品、マーケティングの会議などさまざまで、できるだけ顔を出すようにしています。またインフォーマルな場面での現場の人とのコミュニケーションや、役員とのコミュニケーションが多いですね。ワン・オン・ワンのタッチポイントというのは非常に重要ですね。その積み重ねでビジネスの全体像を掴み、相手にも会社の目指す方向性やプライオリティをより実感の湧く形で伝えることができるようになるのだと思います。

常にそこにいるヴィジブルなCFOが理想 <br />現場を理解した判断ができてこそ存在価値がある<br />――梅田千史・MSD取締役執行役員財務部門統括梅田氏が率いる財務部門の主要メンバー
Photo by K.S.

 そうすることで現場とファイナンスとのギャップも解消できるかと思いますし、全体像を見ながら、戦略に則った投資判断をするという、ファイナンスならではの仕事ができるのだと思いますね。

 こういうことは、私だけではなくて、部下の部課長クラスにも言っています。みなさんの仕事は人に会って、情報を取ってくること、またはファイナンス的な視点をわかりやすい形で他部署の方に伝えていくことです、と。社内にネットワークを持って、全体の視野を持ち、自ら問題を解決するために働いてくださいと言っています。

永井 梅田さんはファイナンスのトップとして全社の数字を分析したりする時間は取らないようにしているんですね。

梅田 もちろん必要なレポートや資料のレビューは行いますが、自分でエクセルを触りだしたらマズい、と思っています(笑)。私の仕事は判断し責任を取るということですから、そこをいかに効率的・効果的に行うかが勝負の分かれ目です。そのためには、積極的にデリゲーション(権限委譲)を行ない、数字の分析も含め実務はなるべくチームに任せる、自分はチームからの報告を効率的にレビューできるよう、必要な背景知識を得てチームへの期待を明確に伝える、ということが必要になります。実際は言うほどスマートにできていませんが(笑)。

 デリゲーションすることで、戦略的な判断に役立つような情報収集やそれらの情報を踏まえた思考の時間を取ることができる。これを実践するためには自分を律しないと難しいですね(笑)。