ゲイリー・ハメル教授(1954年生まれ)は20世紀末の戦略論の貢献者として最も尊敬される人物の1人である。
組織革新に対する彼の新鮮で時に痛烈なアプローチは、学会と企業人の両方から広く認められている。
彼の評判が高まったのは1990年代の前半からで、C・K・プラハラードとともにその画期的な戦略論を発表しはじめ、その過程で企業のコアコンピタンス、戦略的意図、戦略設計図などの概念を創造してきたことによる。
人生と業績
ハメルは病院管理の仕事をした後、1978年に国際経営の博士号取得を目指してミシガン大学に入学し、そこでC・K・プラハラードに出会った。プラハラードは後にハメルの良き師、協力者、そして研究、著述活動、ビジネスのパートナーになる人物だ。ハメルが頭角を現したのは1990年代前半の雑誌論文と、1994年にプラハラードとともに著した『コアコンピタンス経営』(Competing for the Future)によってである。
現在は戦略論の第一線で活躍し、ロンドン大学ビジネススクールの戦略国際マネジメントの客員教授、ハーバード大学ビジネススクールの卓越した研究員であり、1995年にプラハラードとともに設立したコンサルティング会社ストラテゴス(Strategos)の会長でもある。
思想のポイント
●なぜ新しい戦略論が必要なのか。
ハメルによると、1980年代の初め頃の企業の発展の原動力は、戦略ではなく従来の延長線上での成長だった。企業は人員削減、階層削減、リエンジニアリング、そして継続的品質向上により何とか成長を維持しようとしており、ベストプラクティスを模倣することが目的になっていた。これらの漸進的な改善活動は、これ以上は無理というところまでコストを切り詰める結果になった。
しかし、この時代のビジネス環境を見ると、競争を質的に変化させ、かつては優勢だった伝統産業の基礎を揺るがすさまざまな新しい力が動き出していた。それには以下のようなものが挙げられる。
・規制緩和と民営化。特に航空業界、電気通信業界、金融サービス業界において顕著である。
・コンピュータ、電気通信産業において境界があいまいになり、業界は分裂し、新規参入が増加している。
・消費者が求める価格、品質、サービスの変化。
・インターネットに代表される絶え間ない技術革新。
・労働力の分散、権限委譲の増大、階層削減に伴い、監督権限の境界線が
シフトしている。