『野生の教育論』を刊行したばかりの野村克也氏(78)に、「連勝記録世界新」で沢村賞受賞、ギネスブックにもその名が刻まれたマー君こと、田中将大投手の躍進の秘密について語ってもらった。
真のエースの条件とは?
2013年シーズンのプロ野球の話題をさらったのは、なんと言っても「マー君」こと田中将大のレギュラーシーズン開幕24連勝だった。
私の考えるエースの条件は、大きく言ってふたつある。
ひとつめは「チームの危機を救ってくれる」こと。
そしてもうひとつは、常にチームの勝利を最優先し、ほかの選手の手本となるような「チームの鑑である」ことだ。
今季の田中は、このふたつの条件を完璧にクリアしていた。
この成長の秘密は、いったいどこにあるのだろうか──。
ピッチャーの安定感をもたらす5つの条件
ピッチャーの安定感とは、次の5つの条件を満たすことでもたらされると私は考えている。
第1は、私が「原点能力」と呼ぶところの外角低めを突くコントロール。
第2は、ほしいときにストライクを稼げる多彩な球種。
第3は、ゴロを打たせる能力。
第4は、バッターに「内角を攻めてくるのではないか」と思わせる投球術。
そして、最後に、守備とクイックモーションの技術、である。
もともと田中はこのすべてを高いレベルで備えていた。
ただ、昨年まではどんな状況でもすべてのバッターに力いっぱい投げていた。
自分の調子、状況、バッターの力量などを総合的に考えながら、臨機応変にメリハリのあるピッチングを組み立てるということができていなかった。