『野生の教育論』を刊行したばかりの野村克也氏(78)に、「連勝記録世界新」で沢村賞受賞、ギネスブックにもその名が刻まれたマー君こと、田中将大投手の躍進の秘密について語ってもらった。

真のエースの条件とは?

野村克也(のむら・かつや) 1935年京都府生まれ。テスト生として南海に入団。1965年、戦後初の3冠王。首位打者1回、本塁打王9回、打点王7回、MVP5回を獲得。35歳で選手兼任監督となり、8年間でAクラス6回、1973年リーグ優勝。ロッテ、西武でプレーし45歳で引退。「野村スコープ」で話題となった9年間の解説者生活を経て、1990年からヤクルト監督。弱小球団の選手たちに闘争心と人間教育を中心とした教養を植えつけ、リーグ優勝4回、日本一3回へ導く。阪神、社会人・シダックス監督を経て、2006年から楽天監督。田中将大を1年目から11勝&新人王に育てる。2009年、球団初のクライマックスシリーズに進出。宮本慎也、稲葉篤紀ら多くのWBC日本代表を育てた。現在、日本体育大学客員教授。 (撮影:荒川雅臣)

 2013年シーズンのプロ野球の話題をさらったのは、なんと言っても「マー君」こと田中将大のレギュラーシーズン開幕24連勝だった。
 私の考えるエースの条件は、大きく言ってふたつある。

 ひとつめは「チームの危機を救ってくれる」こと。
 そしてもうひとつは、常にチームの勝利を最優先し、ほかの選手の手本となるような「チームの鑑である」ことだ。

 今季の田中は、このふたつの条件を完璧にクリアしていた。
 この成長の秘密は、いったいどこにあるのだろうか──。

ピッチャーの安定感をもたらす5つの条件

 ピッチャーの安定感とは、次の5つの条件を満たすことでもたらされると私は考えている。

 第1は、私が「原点能力」と呼ぶところの外角低めを突くコントロール。

 第2は、ほしいときにストライクを稼げる多彩な球種。

 第3は、ゴロを打たせる能力。

 第4は、バッターに「内角を攻めてくるのではないか」と思わせる投球術。

 そして、最後に、守備とクイックモーションの技術、である。

 もともと田中はこのすべてを高いレベルで備えていた。
 ただ、昨年まではどんな状況でもすべてのバッターに力いっぱい投げていた。
 自分の調子、状況、バッターの力量などを総合的に考えながら、臨機応変にメリハリのあるピッチングを組み立てるということができていなかった。