「遊び」を覚えた田中は
どう変わったのか?

 つまり、私が「遊び」と呼ぶ、全力投球とコントロール重視の使い分けが充分ではなかったのである。

 春先に行われたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)第3回大会で、田中は格下の相手に打ち込まれた。

 これも原因は「遊び」の足りなさにあったと私は見ていた。
 どんな状況でも、どんなバッターに対しても、スプリットやツーシームといった速い変化球ばかりを多用したため、相手からすればタイミングを合わせやすくなり、狙い打ちされたのである。

 おそらく田中は、この失敗から学んだのだと思う。
 シーズンに入ると、バッターの力量や走者の有無に応じて臨機応変、縦横無尽にピッチングを変えるようになった。

 普通に投げるときは、140キロ台のストレートとスライダーでカウントを稼ぎ、以前のように三振を狙いにはいかず、極力少ない球数でバッターを打たせて取ることを心がけていた。

 しかし、強打者に対したり、ピンチを迎えたりすると、ギアを一段も二段も上げた。
 とくに、得点圏にランナーを背負ったときは、ストレートは唸りをあげ、変化球はキレと鋭さを増した。

 そう、今季の田中は、私が課題としてあげていた「遊び」を覚えたのだ。
 開幕24連勝の背景には、緩急の使い分けを覚えたことで、うまく力を配分できるようになったことがあった。

 ただし、それを可能にしたのは、田中の「野生」であったことを見逃してはいけない。