なぜ、最強打線に
田中をぶつけたのか?

 楽天の監督だったとき私は、田中のデビュー戦に、当時最強を誇ったソフトバンク打線を選んだ。
 案の定、田中はめった打ちにあったのだが、そのことはどうでもよかった。
 私が注目していたのは、KOされて戻ってきたときの田中の表情だった。

 果たして田中は、ベンチで悔し涙を見せた。その姿を見て私は確信したものだ。

 「この子は楽天を、いや、球界を代表するエースになる」

「こんな悔しさは二度と味わいたくない」
 手痛い失敗をしたとき、強くそう思えば、何がいけなかったのか、何が足りないのか原因を突き止め、次はどうすればいいのかと徹底的に考え、試行錯誤するはずだ。

 それが成長を促すのである。
 「失敗と書いて、せいちょう(成長)と読む」と私がしばしば口にする所以はここにある。
 そのための原動力となるのが、闘争心や反骨心なのである。