特定秘密保護法は12月6日参議院で可決、成立した。多くの国民がこの法律に対して、不安、疑問、怒りを抱くのは当然だが、実はこれまで存在した秘密保護法制でも、何でも秘密にできるというのが実態だ。加えて特定秘密を扱う人たちに対する「適性評価」によって、人権侵害や公安警察権力の肥大化が懸念される。
防衛庁記者クラブの電話が盗聴
特定秘密保護法は12月6日参議院で可決、成立した。安倍総理がおそらく支持率の低下を覚悟の上で強行採決を連発し、早期成立を図ったのは、時間が経てば経つほど各方面に反対論が拡がり、さらに傷を深めると判断したものと考えられる。この法律を読めば不安、疑問、怒りを抱く人が多いのは当然だが、実はこれまで存在した秘密保護法制にも同様な問題がある。それを含めて秘密指定の妥当性を審査したり、開示する制度をどうするかなどこの不人気な法律をめぐる紛議は来年も続きそうだ。
私は1968年に朝日新聞の防衛庁担当記者となり、すでに45年も軍事記者、評論家をつとめてきたから、秘密漏洩事件の危ない橋を渡り続けてきた。1985年に「スパイ防止法案」が議員立法で提出された当時、それを提唱した自民党議員の1人は「田岡を捕まえる法律だ」と言っているとも聞いた。防衛庁記者クラブの電話が盗聴されていることは常識だったし、他紙が知らない重要な記事「特ダネ」を出せば、そのニュースソースを探ろうと警務隊(憲兵)や調査隊(防諜部隊)が動いていることを、別のソースから教えられることもよくあった。
盗聴に最初に気付いたのは記者クラブから国際法学者だった父に電話して国際法上の疑問を尋ねた際だった。数日後に防衛庁の高官と話していると彼が「父上もそう仰言っている」と言う。私が「その見解はどこでお知りになったか」と聞くと相手は一瞬うろたえ「どこかの新聞で読みました」と言ったが、そんな記事は見たことがない。盗聴記録を読んでいたため、新聞記事と混同し、つい口を滑らせたことが丸見えだった。
とっくに時効だが滑稽な話もあって、ある朝制服の幹部が私の自宅に電話して来て、「いま公衆電話からかけています(庁内の電話は聴かれているから、の意味)。今朝の貴方の記事に大臣(防衛庁長官)が、おれも聞いてないことが新聞に出ている、と怒っている。すでに終わったことで出しても構わない話なんですがね。洩らしたのは誰か調べろ、と言うので、さっき調査を命じました。ついてはしばらく私の部屋には来ないでいただきたい」との話だった。1ヵ月以上経って会合で会ったから「調査は終わりましたか」とささやくと、相手は「田岡記者は米軍士官に友人が多く、米軍から出た模様、との報告でした。うちの調査もダメですな」と苦笑した。「それは最も無難な結論ですな。本当の事が分かっても、それを貴方に報告するわけには行かないでしょう」と2人で密かに笑い合った。