各省庁が要求する2014年度予算は、今月中にもほぼ決定される。決定される予算の中には、厚労省による生活保護費も含まれている。
2013年1月に決定された生活扶助等の引き下げ方針に基づき、2013年8月、2014年4月、2015年4月と引き下げが行われる予定となっている。既に執行された2013年8月の引き下げ以後の2回は、毎年の予算案で決定された後に執行される。
今回は、一連の引き下げの根拠とされた「物価下落」を疑い続けている、1人の新聞記者の思いを紹介する。問題意識の源は何なのだろうか? なぜ、この問題を追い続けるのだろうか?
厚労省の示す物価下落率に
「こんなの、ありえん!」
拡大画像表示
長年、新聞記者として活動している白井康彦さん(現在は中日新聞社生活部編集委員)は、2013年1月、厚労省が生活扶助費を「見直す(実質的に大幅引き下げ)」根拠とした物価下落率を見た時の驚きを、現在も生々しく語る。
「生活保護を受けている人たちにとっての物価が、4.78%下がったっていうでしょう?」
当時、厚労省が公開したばかりの資料「生活保護制度の見直しについて」によれば、「デフレ調整分」として4.78%の引き下げを行う方針が示されている(5ページ)。そこには
「前回見直し(平成20年)以後、基準額は見直されていないが、その間デフレ傾向が続いている。このため、実質的な購買力を維持しつつ、客観的な経済指標である物価を勘案して基準額の改定を行う(下線・筆者)」
とある。また、ここでは示されていないが、4.78%の「デフレ」の根拠は、厚労省が独自に採用した消費者物価指数「生活扶助相当CPI」であった。以後、白井氏は、生活扶助相当CPIの問題点の追及を続けている。
生活保護基準の決定に何の議論もなく物価スライドを持ち込むこと(注)、「生活扶助相当CPI」という独自指標を使用することの是非はともあれ、
「消費者物価が下落しているのだから、生活保護基準は引き下げてもよい」
とする論理には、一応のもっともらしさはあるように思える。では白井さんは、なぜ、1年近くが経過しようとする現在も、この問題を追及し続けているのだろうか?
(注)
1980年代以後、生活保護基準は、一般低所得世帯の消費実態との均衡を考慮する「水準均衡方式」によって決定されてきている。消費者物価は、一般低所得 世帯の消費との比較によって間接的に考慮されている。また毎年行われる最低生活費の決定においても、消費者物価は考慮されている。「生活保護費には物価ス ライド方式が持ち込まれていないので、生活保護費だけ消費者物価と無関係に高止まり」という批判をよく見かけるが、それは当たっていない。