2013年1月27日、政府は生活保護基準の引き下げ方針を明らかにした。主要な根拠は、社会保障審議会・生活保護基準部会による報告と、デフレによる消費者物価下落である。

しかし第11回で示したとおり、基準部会がまとめた報告書には、明確に「生活保護基準は引き下げが妥当」と読み取れる記述は全く見当たらない。

では、デフレはどうだろうか? 生活保護基準を引き下げる充分な理由になりえるだろうか? また、近年のデフレ自体は事実であるとしても、本当に、低所得層にとっての消費者物価は下落しているのであろうか?

明確になってくる
生活保護基準引き下げの内容

生活保護基準引き下げに対抗する動きも盛んである。2013年2月1日、衆議院第一議員会館で開催された緊急院内集会には、300名近くもの参加者があった。筆者は参加できなかったが、参加された方より写真のご提供を受けた

 2013年1月27日以降、将来の「生活保護基準引き下げ」は、すでに既成事実になってしまった感がある。今回は、その背後にあるデフレ論について、妥当かどうかを検討してみたい。なお、前回の最後に、「生活保護基準引き下げに関する具体的検討を中心に、今、何がどのように行われようとしているのかを紹介する」と予告したが、今回はデフレ論とその背後にあると考えられるものをテーマにする。

 ここで改めて、政府によって検討されている生活保護基準引き下げの内容を見てみよう。2013年1月27日の各新聞社報道によれば、政府方針は

・生活保護費のうち生活扶助の基準額を、2013年度から3年間で670億円減額する(生活保護費のうち国庫支出の約6.5%)。
・期末一時扶助金(1人あたり1万4000円)を70億円減額する。
・合計で、740億円を減額する(生活保護費のうち国庫支出の約7.3%)。
・生活保護受給者への支給額の減額は8月から。7月の参院選に配慮したもの。
・生活扶助で減額される6.5%のうち5.7%は、デフレによる物価下落に連動したもの。
・田村厚労相によれば「(生活保護受給者ではない)関係ない人まで困ることはない」。

 このデフレによる物価下落「5.7%」は、本当だろうか? 筆者自身の消費生活を顧みて、デフレの恩恵に与ってきた実感は全くない。むしろ、デフレに伴う不況と、不況による収入減の打撃の方が大きかった。

 しかし、「実感ベース」が当てにできるものであれば、いわゆる「生活保護バッシング」の過熱はなかったであろう。まずは、データを見てみよう。