田中将大(25)とともに同期入団で1年目から野村克也氏(78)の薫陶を受けた嶋基宏(29)。
ついに、2013年、球団創設9年目にして念願の日本一になった。
『野生の教育論』 で「楽天vs巨人」の日本シリーズを徹底解説したかつての恩師は、嶋の活躍をどう見ているのだろうか?

野村克也(のむら・かつや) 1935年京都府生まれ。テスト生として南海に入団。1965年、戦後初の3冠王。首位打者1回、本塁打王9回、打点王7回、MVP5回を獲得。35歳で選手兼任監督となり、8年間でAクラス6回、1973年リーグ優勝。ロッテ、西武でプレーし45歳で引退。「野村スコープ」で話題となった9年間の解説者生活を経て、1990年からヤクルト監督。弱小球団の選手たちに闘争心と人間教育を中心とした教養を植えつけ、リーグ優勝4回、日本一3回へ導く。阪神、社会人・シダックス監督を経て、2006年から楽天監督。田中将大を1年目から11勝&新人王に育てる。2009年、球団初のクライマックスシリーズに進出。宮本慎也、稲葉篤紀ら多くのWBC日本代表を育てた。現在、日本体育大学客員教授。

“無言の対話”ができるようになった嶋

 楽天のキャッチャー、嶋基宏にはこれまでたびたび厳しいことを言ってきた。

 近年はチームリーダーとしての自覚が大いに出てきたようだし、返球などを通じてピッチャーとの“無言の対話”もできるようになった。

 私が監督だったころに較べれば、ずいぶんと成長したと思う。

 配球においても、日本シリーズを見ていると、かなり内角を攻められるようになっている。

 しかし、いまもピンチになると、「外角一辺倒」という悪いクセが顔を出すことがある。

 これでは配球が単調になり、相手バッターに読まれやすくなってしまう。

なぜ、嶋は内角を攻められないのか?

 新人時代の嶋は、どうしても内角を要求することができなかった。

「インコースに行け! インコースだ!」

 当時コーチだった克則がベンチからどれだけ怒鳴っても、内角を攻めようとしなかった。

 なぜなのか、嶋に直接訊ねたことがある。

 第一の理由は、「ホームランが怖い」。
 そして、もうひとつの理由として嶋があげたのが、「ぶつけるのが怖い」ということだった。
 もしデッドボールを与えてしまうと、次に自分が打席に立ったときにぶつけ返される。それを恐れていたのである。

 現役時代は私もよく狙われたものだが、むしろそうした仕返しを発奮材料にして闘志を沸き立たせたものだった。

 そうでなければ、キャッチャーという仕事は務まらないのである。

 はっきり言うが、嶋はハートが弱いのだ。ふと思いついて、嶋の中学時代の成績を調べさせたことがある。
 驚いたことに、5段階でオール5だった。