自衛権行使の要件
「ウェブスター見解」

 そもそも、自衛権とは具体的にどのような権利なのだろうか。国際社会において国家の自衛権が真剣に議論されるようになったのは19世紀のことである。

 1837年、当時英国領であったカナダと米国との国境を流れるナイアガラ川で、英国軍が米国領内で米国の小汽船カロライン号を攻撃した。この行為を巡って米国と英国との間で、その行為の正当性と、自衛を目的とした正当性を成立させる要件とが議論された。その後、このときの要件が国際法上の自衛権行使に関する考え方のひな形となった。

 その頃、英領カナダでは独立を求める反乱が起きており、このカロライン号が反乱勢力を支援するために使われていたことが背景にあった。英国は、米国領内に軍隊を送り、この小汽船を襲撃して乗員十数名を殺害し、同船を破壊した。その上で、その行為について、自衛権の行使を目的とした正当なものであると主張した。

 英国との交渉にあたったウェブスター米国務長官は、英国の主張に対して、武力の行使を自衛のためとして正当化するためには、「(1)目前に差し迫った重大な自衛の必要性があり、(2)手段の選択の余裕なく(以下、略)」、また(3)その手段は(自衛の)「必要によって限定され、明らかにその限界内にとどまるもの」という条件を満たさねばならないとし、英国に対してこれらの点を証明するよう求めた(参照:田岡良一『国際法上の自衛権』)。

 英国は、米国領土を侵害したことについて遺憾の意を表明するとともに、ウェブスター米国務長官の論理に即して正当性を説明した。これが、いわゆる「カロライン号事件」を巡る、「ウェブスター見解」と呼ばれる一般国際法上の自衛権行使の要件である。