昨年の暮れ、インフルエンザの予防接種を受けるために、病院の待合室で週刊誌を読んでいた。ある家電量販店で「内引き」による窃盗事件が多発しているという記事が掲載されていた。
外部の者による窃盗を「万引き」というのに対し、社内の者による窃盗を「内引き」というらしい。その多くが、従業員ではなく、減給に不満を持った店長による犯罪だという。
業績が悪化した場合、モノに係る物件費と、ヒトに係る人件費のどちらを先に削りやすいかというと、人件費のほうになるのだろう。店舗などの撤収には半年や一年の時間を要するが、人件費であれば翌月から削減できる。
家電量販店の本社エリートが、人件費の削減プランを策定したとき、まさか店長による「内引き」が横行するとは考えてもいなかったであろう。本社エリートたちは、自らが意思決定した策によって「現場」がどのように反応するのかを、往々にして失念する。
『マンキュー[第2版]経済学Ⅰミクロ編』10ページでは、安全性を高めるために導入されたシートベルトが、かえって交通事故件数を増やす結果になっていることを紹介している。トヨタ自動車やグーグルなどで、これから本格導入されようとしている「自動運転システム」も、交通事故件数を増加させるだけなのかもしれない。
行政や企業のエリートたちが机上で考案して、社会や組織にとってよかれと思って導入した仕組みが、現場ではまったく異なる結果を生み出す。よくある話のようだ。
本社エリートたちでは
解明できない業績数値がある
いまの例は、机上の政策が、現場では予期せぬ結果を生むケースであった。業績が悪くなると、すべてのものが悪い方向へ、悪い方向へと進む。
もちろん、よい方向へ向かうケースもあるだろう。今回は「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングで検証してみたい。