「強迫観念にとらわれたかのようにメールの返信を急ぐ人」、「せっかく一流企業に入ったのに辞めて、所得を減らしてでも自分らしい職場を探す人」……。一見不可解な現代の若者に特徴的なこれらの行動。こうした行動に駆り立てる原因を探っていくと、彼らの「認められたい」という思いに行きつくことが少なくない。現代において若者を悩ませる最大の問題は、経済的不安ではない。「認められない」という不安なのだ。
一方で、若者でない世代も含めて、日本に蔓延する閉塞感の正体を探る意味でも「承認」、さらに「承認格差」は、大きなキーワードだと考える。この連載では、経済的な格差に苦しむよりも深刻かもしれない、「“認められない”という名の格差」を考えていこうと思う。
昨今の私たちの行動原理が「誰かに認められたい」という思いに支配されているのではないかという仮説、その裏側にある「認めてくれない社会」という問題について考える当連載。今回のテーマは、「消費と承認」である。「若者は消費しない」と言われ出して、少なくても10年以上が経過し、当時の若者もずいぶん大人になった。ロスジェネ世代以降の若者が消費しないと言われ続けていると仮定すると、もはや40歳以下の30代、20代すべてに当てはまる共通の傾向であり、これはもはや“若者”でくくられる問題ではないだろう。
しかし、承認欲求と結びつけて考えると、ここに矛盾が生じる。そもそも、車が欲しくなったり、ブランドの服を身につけたくなることを、承認欲求の発露と考えるほうが自然ではないだろうか。承認欲求が現れやすいという傾向と消費傾向について、どのような相関性を持っているのか考察するため、数名の人に消費傾向について話を聞くことにした。
買うのは趣味のものや生活必需品だけ
“見栄”の消費は意味をなさない
【1人目】仮名:Aさん
職業:Webディレクター
性別:女性
年齢:29歳
住居:中野区在住(1DK)
学歴:都内私立大学卒
――最近の大きな買い物ってなんですか?
「(しばらく考え込んで)大きな買い物はないですね。2年前にiPhone(当時5万円相当)を購入したきりです。あ、でも旅行に行ったりはしましたね。そのときは飛行機代、宿泊費、現地での費用など合わせて10万円ぐらい使いました。とは言え、LCCを使用してできるだけ安いプランで行きましたね」