まさに「アベノミクス効果」ということか。東京商工会議所が2013年8~9月に行った『中小企業等の賃金に関するアンケート』の調査結果が、10月15日に発表された。同調査では、今年4~7月に支払った賃金総額と前年同期との比較について尋ねている。中小企業等の賃金や雇用の状況について会員企業2628社が回答した結果は、東京23区の中小企業の3分の1が賃金総額を増加させたことがわかった。全体の35.8%に当たる928社で「毎月支給の基本給を上げた」(64.1%)、「一時金(賞与)を増額した」(37%)などの賃上げが行われ、一見景気の良さそうな雰囲気も漂う。

しかし、果たして中小・零細企業の社員、非正社員らの状況はどうか。取材を行うと、アベノミクスの恩恵など微塵も感じられない想像以上の生活苦の実態が浮き彫りとなった。巷で喧伝されるアベノミクス効果がいつ“下々の者”に届くのか、その見通しはつかない。「安定した経済」と表裏一体の関係にあるはずの「安定した雇用」を目指す構造改革が急務である。(取材・文/労働経済ジャーナリスト・小林美希)

130時間の労働で月収はわずか13万円
“下々の者”にアベノミクスは届かない

アベノミクスの効果は徐々に実体経済へと波及し始めている。しかし大企業はともかく、零細・中小企業の社員にとって、給料アップは夢のまた夢だ。アベノミクスの効果が浸透するのを待つばかりでなく、足もとで「安定した雇用」を目指す構造改革も必要なのではないか ※写真と本文とは関係ありません Photo:AFLO

「僕ら“下々の者”には、アベノミクスの恩恵など全くないですよ」

 都内に住む木村純一さん(仮名・40歳)は、ため息混じりに言った。

 純一さんは、非正社員の時期が長い。製造業で工場の請負社員や、酒の量販店での契約社員など、働き口があれば何でもやってきた。直近では、今年3月末まで飲食・サービス業の会社で約3年働いたが、失職した。

 次の仕事がなかなか決まらず、派遣で清掃の仕事などをしてつないだ。しかし、力仕事は体力的に続けることが困難だった。そのため、やむなく生活保護の申請をして、月13万円を受け取り、生計を維持した。公営住宅の家賃が3万8000円のため、それでも何とかなった。

 生活保護を受けながらハローワークに通い、20社ほど面接を受けると、5月から銀座の老舗高級飲食店で洗い場のアルバイトが決まった。時給は900円。東京都の最低賃金869円(10月19日から改正)と、さほど変わらない水準だ。

 月に約130時間の労働で、月収は13万円程度。生活保護を受けているのと差がない。さらには社会保険が未加入のため、“安定”とはほど遠いが、一定した収入を得られる安堵感は大きい。