「強迫観念にとらわれたかのようにメールの返信を急ぐ人」、「せっかく一流企業に入ったのに辞めて、所得を減らしてでも自分らしい職場を探す人」……。一見不可解な現代の若者に特徴的なこれらの行動。こうした行動に駆り立てる原因を探っていくと、彼らの「認められたい」という思いに行きつくことが少なくない。現代において若者を悩ませる最大の問題は、経済的不安ではない。「認められない」という不安なのだ。

一方で、若者でない世代も含めて、日本に蔓延する閉塞感の正体を探る意味でも「承認」、さらに「承認格差」は、大きなキーワードだと考える。この連載では、経済的な格差に苦しむよりも深刻かもしれない、「“認められない”という名の格差」を考えていこうと思う。

 さて今回のテーマはズバリ、アイドルだ。世の中アイドルブームである。現在のアイドルブームのきっかけを作ったのはAKB48で、しばらく一人勝ちの状態であったが、現在は百花繚乱の世界。紅白歌合戦出場者(紅組)だけを見ても、ももいろクローバーZ、Perfume、E-girls、SKE48、NMB48などアイドルグループの名前がずらりと並ぶ。

 20世紀のアイドルと大きく異なる特徴は、ずばり「握手会」である。これは、CDや写真集を購入した人の特典として、アイドル本人と握手できるというもので、CDを買うのはこの権利のためと言っても過言ではない。なかには何度も握手する権利を獲得するために、1人で100枚以上という大量のCDを購入するファンも少なくない。

 アイドルに興味がない人にとっては、なぜ大金をはたいてアイドルと握手がしたいのか、謎に思うだろう。そこで今回は、承認不安という観点から、アイドルを応援したくなる構造について探ってみようと思う。自分の自由時間の半分ほどをアイドルに費やすという山田さん(仮名・31歳、独身)を例に、アイドルにはまってしまう心理について明らかにしたい。

アイドルにはまったのは28歳から!
年間100万円以上を費やす猛者も

――今日はよろしくお願いします。ところで、山田さんがアイドルにハマったのはいつからですか?

 僕は歴が浅くて、3年前ですね。2010年の6月です。家でYouTubeを見ていたら、モーニング娘。の楽曲がおすすめリスト入っていて、何となく聴いてみたんですよ。そしたら突然夢中になって。それから、ハロー!プロジェクト系のアイドルのライブに通うようになりました。2010年はAKB48が「ヘビーローテーション」という曲を出したりして、アイドルブームが始まった年なんですよね。だからいろんなアイドルに夢中になりました。