粉飾決算による株価下落で被害が生じたとして、株主が企業と取締役を訴えていた訴訟で、株主の請求を全面的に認めるという判決が下った。いくつかの論点で非常に興味深い判決であった。

 この企業は、平成15年6月に東証マザーズに上場した大分県のソフト開発会社「アソシエント・テクノロジー」で、粉飾決算によって東証マザーズを上場廃止となっている。裁判所は、平成15年1月期半期、7月期、16年1月期半期の決算書などに虚偽記載があったとして、粉飾決算を認定した。上場前の平成14年8月から粉飾がなされていたということだが、原告の株主2名は上場約1年後の平成16年6月から7月にかけて粉飾決算を知らずに株式を購入し、損害を被ったということで、売却時と購入時の差額である請求全額の約1588万円の支払いが認められた。

株価下落による損害は
「直接損害」か「間接損害」か

 株の売買は、基本的に自己責任であるという原則があるので、粉飾決算があったからと言って、株主が会社を訴えても損害を全額請求できるかは、通常難しいと言われている。

 会社側は、これは株式の価値下落という「間接損害」であり、基本的には株主の自己責任であると主張した。

 被告となった営業担当の取締役副社長は、「市場における株価は様々な要素により上下動を繰り返すものであって、株価の上昇要因、下落要因を特定することは困難である。また市場における株価は投資家の思惑により現実の株式の価値以上に高騰、下落を繰り返す場合があり、必ずしも株式の本来的価値を反映しているものではない。」と主張する。

 一方、原告株主は、本件による損害を「直接損害」であると主張。会社の重過失による損害賠償責任を規定する旧商法266条の3は、債権者などが取締役に請求する際の規定であり、株主には妥当しないという会社側の主張は、結果的に退けられた。

 もう1つの争点が、架空取引かスルー取引かという点だ。会社側は、受注した案件をそのまま外注に回す合法的なスルー取引(丸投げ外注取引)だったと主張していたが、裁判所はこれを架空取引と認定した。

 また今回は、会社と取締役双方に対して、損害賠償が請求されている。賠償を会社に請求することの難しさもある。つまり、損害を会社に請求すると、結果的に賠償金を他の株主が負担することになる。本件は2人の株主が計1588万円を請求したわけだが、仮に多数の株主が請求したとすれば、全部の請求が認められることはなかっただろう。