東日本大震災の大津波で、児童・教職員84人が死亡、行方不明となった石巻市立大川小学校。当日の避難行動などを明らかにする事故検証委員会は9日、児童遺族への最終報告書案に関する報告会を石巻市内で開催した。検証委は、遺族から提出された指摘や議論を踏まえて追加調査や修正点を盛り込み、23日には最終報告書を遺族に提示する方針を明らかにした。
9日の報告会は、時間切れで終了した1月26日の報告会の続きとして、非公開で行われた。出席者は児童遺族が13家族21人。文科省と県教委、事務局の他に、検証委員は室﨑益輝委員長(神戸大名誉教授)のみが出席した。両日で遺族から100項目以上の疑問点や指摘が出され、今回も意見交換は5時間半に及んだ。
遺族側からは、「事実なのにあいまいな書きぶりの部分は修正してほしい」「事実解明を目指さないなら、検証という言葉を外すべき」「2年間で13人中9人が転出した大川小人事の異常な点を取り上げるべき」などと最終報告書案に対する様々な意見が並んだ。
唯一生存教諭証言の整合性も放置
評価・分析の不十分さが明らかに
今回が、検証委と遺族が直接議論できる最後の場だった。
前半はまず事務局が、前回の報告会で出された疑問点に対する検証委の見解を説明したあと、委員長と遺族が意見交換。後半は、遺族があらかじめ提出してあった積み残し分の質問に対して室﨑委員長が回答し、意見交換をするという流れだった。
以後、検証委側と遺族で交わされたやりとりの象徴的な部分を紹介する。
検証委は、前回の報告会でも指摘があった、学校の裏山の斜度について、算出方法を脚注に書くことや、「なだらか」という表現に改める約束をした。これに対し、遺族側は、「(遺族側の依頼した測量士が計測した斜度)9度と書いて」と、定量的な表現にするよう改めて注文をつけた。
また、当時現場にいて、教職員の中で唯一生還したA教諭の証言が、他の人の証言や事実と整合性が合わないことについて、検証委は「一般論としては心理的不安などの記憶の変容をもたらした可能性は指摘できるが、教職員Aがそのような状態だったと記載できるほどの推定はできない」という見解を示した。
それに対する、遺族と委員長とのやり取りは以下の通りだ。
遺族 「これまでも、なぜ他の人と異なる証言なのかを調べてほしいと言ってきた。これで終わらせて良いのか? 重要な部分だ」
室﨑委員長 「重要な部分だと思う。個人的には、自己正当化しようという心理的状況で発言しているのだろうと思うが、私は心理学や医学の専門家でないので断定して書けない」
遺族 「重要であるという書きぶりはできないのか。当日の事実が解明できれば、これからの教訓に大きく進むことになるし、提言にもなる。“ここまで”とするなら重要な度合いについては書くべき」
室崎委員長 「こうだとは断定できないが、考えることはできると思う。検討させていただきたい」
遺族 「心理学を専門とする委員の方々は、ここでこそ力を発揮していただきたい」
室崎委員長 「逆に、心理学の先生が“いや、こういうことは書けない”と言っていることに心理学が専門でない私が口を挟むのは難しい」
遺族 「せめて、分析を行ったということは必要じゃないか」
検証委は1年かけて大量の資料を検討したり、大勢から聞き取り調査を行ったりしてきた。しかし、遺族たちが検証委設置の段階から「知りたい」と要望し続けてきたことについては、評価・分析が不十分な例が目立つ。初めから手がけないのではなく、手がけてみたうえで報告書に残すことは必要なのではないだろうか。