3回目となった検証委員と遺族の意見交換会

結局、目新しい情報は、何ひとつ出てこなかった。学校管理下にあった児童・教職員84人が東日本大震災の津波で犠牲になった宮城県石巻市立大川小学校。第9回事故検証委員会は1月19日の12時30分から、石巻市の石巻合同庁舎で行われ、ついに最終報告書案が示された。しかし、たくさんの矛盾や疑問が解明されないままの曖昧な内容に、遺族からは批判や不満が噴出。心が折れて泣く人や、途中退出した人もいた。意見交換や記者会見を含めた最終報告書案を巡る議論は、7時間半に及んだ。

5700万円の血税を使ってこれ?
核心に結局触れなかった最終報告案

 1年かけて事実を積み上げることのできなかった検証に、いったい何の意味があったのか。

 この日、配布された「大川小学校事故検証報告書(案)」は、160ページに及ぶ。しかし、なぜ地震発生から津波が襲うまでの約50分間、子どもたちは校庭から1メートルも上がることなく、助かるはずの命が失われたのか。遺族が知りたがっていた、その核心部分に迫る事実は曖昧なままだった。

会合が始まる前に、最終報告の資料を読み込む遺族の佐藤美広、とも子夫妻。当時3年生だったひとり息子は、野球が大好きだった

 この間、遺族が報告会や意見交換の場で検証委員会側に指摘してきた数多くの矛盾や情報提供、訴えなどは、ことごとく無視された。

 それでも、新たに、20ページにわたって24項目の「提言(案)」が出てくるなど、失望や落胆に打ちひしがれる遺族たちを前にして、「ささやかな達成感がある」と“自画自賛”に浸る検証委員会の運営ぶりには、思わずゾッとした。

 意見交換に入ると、この日、最終報告書案に初めて目を通したばかりの遺族が、こう問いかけた。

「これは大川小学校の事故を基にした提言ですか?この1年、何か目新しい事実は出てきましたか?市教委、遺族が調べた情報以上のことは何ひとつ出て来てませんよ」

「校長の資質とか、助かった先生のこととか、核心部分が見えてこない。これが57万円でできた検証ならいい。最大の被災地の血税を5700万円も使った価値がありますか?」

 しかし、室崎益輝委員長(神戸大学名誉教授)は「私は価値がある報告書を作ったと思っている」「新しいことはたくさんわかった」と答えた。