東京生まれ、会社勤め、共働き、子ども3人。およそフットワークが軽いとは言えない「田舎素人」の一家が始めた「二地域居住」という暮らし方。その第一歩は、もうひとつの日常を綴るための、里山の土地探しだった。新刊『週末は田舎暮らし』から、本文を一部抜粋して紹介する4回連載の第3回。
ネットではじめた土地探し
こうして、世にも地道な田舎物件探しの日々が始まりました。
「おまえは建築が専門なんだから、物件探しも得意だろ、イメージもじゃんじゃん湧くだろ?」と夫に言われると、布団をかぶりたくなるほど右も左も分からない不動産素人のわたしは、ひとまずネット情報に助けを求めることにしました。
まずは手当たり次第、さまざまな田舎物件サイトを閲覧していきます。いろいろ、あるはある。しかし、どれもピンときません。それもそのはず、自分の「焦点」が定まっていないのです。
通常の住宅物件探しと、週末田舎暮らし物件探しは、かなり趣が異なります。職場や学校や駅からの近さではないところに選択の根拠を求めねばならないのですが、はじまりが妄想なのですから根拠などない。つまり、「田舎の土地探しの根拠」となる条件をつくるところから、はじまるわけです。
週末そこで何がしたいのか?
大事にしたいことは何か?
見たい風景はどんなか?
そして、どんなライフスタイルなら現実的に可能か?
物件閲覧で物件を見る目を養いつつ、自分自身の希望を緻密に把握していき、あらん限りの想像力を働かせてやったこともない田舎暮らしの構想を立て、それを土地の条件に当てはめていく作業を進めるのです。石から彫刻を掘り出すような思考の可視化のプロセス自体は、わりと面白かった覚えがあります。我が家ではこんな項目が挙がりました。
・まわりに家が少なく、山や林、川と隣接している(生きものと出会える環境)。
・南と東に開けていて、朝日が早く当たる(畑や植物栽培がしやすい環境)。
・斜面地ばかりでなく、まとまった平坦地がある(畑や植物栽培がしやすい環境)。
・敷地の広さは500坪以上(東京の家とはまったく違う広さが欲しい)。
・かつて産廃投棄などされていない、素性の知れたところ(土壌は大事!)。
・携帯の電波がよく届くところ(仕事や家族その他、東京からの連絡が受けられるよう)。
・うちから車で一時間半以内(移動時間が長いとこどもたちの体力が持たない)。
・年間降雨量の少ない地域(外遊びがしたいからなるべく晴れていてほしい)。
・電車でも行ける(渋滞回避や家族バラバラの動きにも対応)。
そしてもちろん、予算の範囲内。というのはどれくらいかというと、スーパーカーブームの時代に小学生だった夫が今でもまだ「一生に一度くらいはフェラーリのオーナーになってみたいなあ!」とほざくので、「フェラーリを買うお金はうちにはありません」とよく釘をさすのですが、
「ねえ、ポルシェなら買える?」
「……買えるのと買うのとは違います」
「じゃ、買おうと思ったら買えるんだな」
「田舎の土地には出しても、ポルシェには出しません!(ビシーッ!)」
とまあ、そんな予算感です。
財務大臣としては、ちゃんとそこを踏まえて贅沢は言っていないつもりでしたが、おそらく傍から見ると「その予算で? その条件!?」という贅沢だったのでしょう。まずもって500坪そこそこの物件が存在せず、「300坪以上」を条件としても登録物件がないのです。あったとしても「1300平米 1億6000万円」などという豪邸物件。
はじめは「小田急線沿線がいいかな!」「東海道線や中央線だと乗り継ぎ悪い?」などと無邪気に話していましたが、一日に何十回も「該当物件がゼロ件ありました」という検索結果を目の当たりにし、都心から一本で行ける路線周辺の500坪以上の格安田舎暮らし物件など、ネット上に存在するわけがないという現実をあっさり知ることとなりました。
そして、東京からどんどん離れてみても坪10万円をそれほど下回らない。狭いし高いし、どうしようもありません。この現実と、どう折り合いをつけるかです。