さらに、独り言のように話す。声は大きい。皆に聞こえるようにしているようだ。(①)

「明後日の入稿日を、後ろにずらそうか……。赤井さんのせいで、こんなに遅れている。彼女は早々と帰ったんだよね。いいなあ、お遊び気分で……」

 女性副編集長は、20代半ばの赤井がまとめた原稿を確認していたが、「その質が低い」と不満を言い続ける。

「赤井さんは、1年前にいた編集部でもこのレベルだったみたい。それで追い出され、うちに来たんだよね。人事部が平野さん(編集長)を拝み倒したみたい。『赤井さんが前の部署でダメ出しを出されたから、面倒をみてやって』と言われて。平野さんは断ることができなかったんだよね」

かつての仕事関係者が明かした
「何も言えない職場」の閉塞感

 彼女のいつもの「ひとり芝居」が始まる。「ひとり芝居」とは、この会社に出入りするカメラマンやデザイナー、フリーライターらが形容する言葉だ。女優のように、1人で職場の問題を挙げつらい、1人でそれについての論評をする。そして1人で怒り、興奮する。

「ひとり芝居」は大体、上司である編集長がいないときに行われる。恐れをなして、その場にいる編集者数人は静かに机に向かい、原稿確認の作業を進める。この中に、筆者が2006~08年にかけて一緒に仕事をしていた女性がいる。

 この出版社は、就職関連の情報誌でかねてから知られていた。今や、インターネットを効果的に使い、独自路線で一定のポジションを獲得しつつある。10年ほど前からは、会社員向けのビジネス書などもつくるようになった。これらいずれもが、20~40代の会社員をターゲットにしたものだ。