今回は、躍進する出版社の30代の副編集長を紹介しよう。この女性は、「実力主義」を掲げるこの会社に中途採用で入り、30代半ばで部下を6~7人も抱えるやり手編集者である。数年以内に昇格し、編集長となる公算があるという。

 しかし、実はその仕事のレベルは低い。20代の部下たちからは総スカンとなりながらも、得意の「ひとり芝居」を続け、部下を押さえつけ続けるのだという。その背景には、この会社独特の「実力主義」があるように思える。

 今回は、筆者が仕事の関係で2006~09年頃に頻繁に出入りしたこの会社の、「歪んだ実力主義」について問題提起したい。あなたが彼女の部下の立場ならば、どうするだろうか。読者諸氏も、一緒に考えてほしい。


「チッ……。は~、何もできていない」
ひとり芝居で部下を潰す女性副編集長

 ここは、ビジネス書や就職関連の雑誌・書籍をつくることで知られる、社員数300人ほどの出版社。業界では、売上がベスト20に入る。

 3階のフロアにある、単行本や新書などの書籍をつくる編集部に、女性の声が響く。

「チッ……。は~、何もできていない。赤井さんは、私が言ったことを聞いていなかったんだろうね」

 午後9時半、広いフロアに響く彼女の舌打ち。あえて聞こえるかのように、大きな音を立てているようだ。30代半ばの女性の副編集長(課長補佐)が、長い髪を時折かきあげ、ため息をつく。

 机の上にある原稿用紙に、赤のボールペンで修正を加えていく。手の動きは怒りのあまり、乱暴だ。「初めに修正ありき」のごとく、重箱の隅をつつくかのように、実に細かいところにまで修正を入れる。