今回は、上司をはじめ多くの部員が参加する、職場の集団いじめを取り上げたい。そうした被害を受けるある男性(27歳・営業マン)から話を聞くと、殴るようなことまではされていないようだ。
しかし「言葉の暴力」に始まり、公衆の面前で踊らされる「罰ゲーム」、さらに「なぜ攻撃」と言われる詰問が毎日繰り広げられるという。これは行き過ぎた「パワハラ」「いじめ」の類であり、受ける側にとっては「集団リンチ状況」とも言える。それでも男性は笑い、踊り、平気なふりをして出社する。いつかは、この「リンチ」が終わると思い込んでいる。
筆者には、会社には世代や性別を越えて、働き手の正常な感覚を破壊する何かがあるように思えてならない。そのような視点から男性の話を聞き、職場に根付く課題を筆者なりに炙り出したい。読者諸氏にも、一緒に考えてほしい。
卓球のラリーに負けたら踊れ!
集団リンチのような「罰ゲーム」
宮城県仙台市のホテル。大きなロビーの隅に卓球台がある。その周りに、浴衣を着た数人の男性がいる。女性も1人いる。
このメンバーは、都内に本社を構える社員150人ほどの(①)住宅販売専門の不動産会社の営業部(部員60人)の社員だ。この会社は「東北の被災地への支援」と称した社員旅行で仙台を訪れた。明日からは石巻市、女川町などに行く。
卓球台のそばでは、営業第2グループ(社員5人)のリーダーの男性(32歳)がはしゃぐ。宴会場で酒を飲んだ後だけに、普段は見せない表情だ。中学・高校の6年間、卓球部に在籍していた。慣れた手つきでラケットを握る。
相手は5人の中で最年少の営業マン。27歳の宇佐美博(仮名)が顔をひきつらせ、リーダーとラリーを続ける。
宇佐美は卓球をしたことがない。打ち返すことができずに、ラリーが途切れると、「罰ゲーム」が待っている。その場で30秒ほど、踊らないといけない。