歌詞は、森山直太朗と盟友・御徒町凧の共作。日本語の詩の美しさが滲みます。

 そんな、卒業の日々を描く名曲ですが、ですが、どうやって登場したのでしょうか?

名曲の登場は控えめだった

「さくら(独唱)」は、もともとは直太朗の友人の結婚を祝して創られた曲が原曲です。その原曲が磨かれて「さくら」になりました。

 当初は、2002年10月2日発表のメジャーデビュー盤「乾いた唄は魚の餌にちょうどいい」(写真)に収録されました。

 26歳でのメジャーデビューですから、決して若過ぎるというわけではありません。満を持して最高の持ち歌を投入した全6曲のミニアルバムです。冒頭、「レスター」から聴く者の心にグサッと来ます。新しい才能の登場を印象付ける佳作です。

「さくら」は5曲目でした。凄く個性が強いというよりは、超正攻法、ギミックも一切ありません。ある意味、地味な曲です。

 シンプルなピアノに導かれて、森山直太朗の伸びやかな声がとても印象深いこの曲は途中で、ストリングス、生ギター、ベース、ドラムが静かに入ってきます。素材の良さを引き出すために敢えて塩と味醂(みりん)だけで、薄く味付けをする和食の王道のようなアレンジは、曲の原型をしっかり感じさせてくれます。

 このアルバム収録の「さくら」が、2003年3月5日、シングル化されます。その際、アルバムヴァージョンとは別のアレンジを施し、伴奏はピアノだけ。歌は、ソロのヴァージョンとコーラス入りのヴァージョンに分けられました。A面を「さくら(独唱)」、B面を「さくら(合唱)」と命名して発表したのです。

 世はヒップホップ全盛の時代です。電子音とアップビートとラップ的な楽曲ばかりでした。一方、「さくら」は季節的にもぴったりマッチした歌詞と綺麗な旋律で、素晴らしい出来栄えでした。でも実は、レコード会社ですら大ヒットを予想してはいませんでした。初回プレスは(たった)1200枚です(このオリジナル盤は、今やコレクターズアイテム)。

 大々的なプロモーションもやりませんでしたが、素材の良さが徐々に人々の知るところとなっていきました。遂に5月にはオリコンチャートの首位に立ちました。これまでに120万枚以上を売り上げて、森山直太朗の最大のヒット曲です。

 今や、2003年当時の大ヒット曲ということではなく、平成日本を代表する楽曲と言えるでしょう。