サブプライム問題で米国の住宅需要が大幅に落ち込むなかでも塩化ビニル工場が高稼働を続け、増益基調を堅持する信越化学工業。さらには米国工場の増設に踏み切るという。“先読みの達人”は、今後をどう見ているのか。(聞き手 『週刊ダイヤモンド』編集長 鎌塚正良)

かながわ・ちひろ/1926年3月15日生まれ、81歳。50年東京大学法学部政治学科卒業、極東物産(現三井物産)入社。62年信越化学工業入社。 70年海外事業本部長、75年取締役。76年常務取締役。78年米シンテック取締役社長(兼任)、塩化ビニルで世界最大・高収益の工場に育て上げた。79年専務取締役、83年代表取締役副社長を経て、90年代表取締役社長に就任。化学業界随一の高収益体質を築き、株式時価総額で同業ナンバーワンに育て上げた。

――昨年は米国のサブプライム問題が表面化して大騒ぎになりましたが、どのように見ていらっしゃいましたか。

金川 昨年の初めから、米国国内の塩ビ(塩化ビニル)の売り上げが非常に減っていました。住宅着工件数は1月から7月ぐらいまで、月間140万戸台。2005年は(平均で)200万戸を超えています。それに比べたら3割以上落ちているわけです。これはいやな感じだな、と思っていました。

 そういう時期(8月上旬)にサブプライム問題が発生しました。結局、住宅バブルが終わったということです。だから、金利を多少下げたからといって景気が回復するわけではないと思います。

――米国で塩ビを生産する信越化学にとって、住宅需要は生命線ではないですか。

金川 そもそも米国の塩ビ需要は前年に比べて数パーセント減っているんです。米国では塩ビメーカーの株価はよくない。ですが、塩ビが悪いからといって、塩ビの生産が大きい信越化学も悪いと考えるのはまことに短絡的です。

 世界全体の需要は強い。世界中の需要が強いところにどんどん売っていくことで、塩ビ工場の稼働率は100%を維持しています。信用できる調査によると、今の米国メーカーの塩ビ工場の稼働率は76~78%。装置産業で76対100というのは致命的、決定的です。決して楽ではないですが、ちゃんとした経営をしていれば結果が出る。

――米国のメーカーはなぜ輸出しないのですか。

金川 まことに原始的な理由だけど、彼らには輸出のための袋詰めの設備がないんですよ。うちは10年ぐらい前に、当時の輸出量の5倍ぐらいまで対応できる大きな袋詰め設備を造った。多少の投資はしたけれども、そんなものは1年くらいで回収しちゃった。同業他社が持っていない設備があることで、米国国内販売と輸出が機動的に実施できます。