2月7日にこのコーナーで、文科省版の官製ファンドである「官民イノベーションプログラム」(国立4大学に計1000億円の国費を投入して学内にベンチャーファンドを創設し、産学共同の大学発ベンチャーに資金を投下)の問題点を指摘しました。その後、ケーススタディとして東大について情報収集を続けたところ、官製ファンドの問題点が改めて明確になりました。それは、ガバナンスの重要性と民業圧迫のリスクです。
ガバナンス軽視の人事異動?
前回説明したように、文科省の「官民イノベーションプログラム」の概要は図のようになっています。基本的には大学内に国費でベンチャーファンドを設置するのですが、その業務が適正に行なわれるよう、実務面では執行サイド(共同研究推進グループ)と監督サイド(共同研究・事業化委員会)が分けられています。
前回は、4大学とも同一人物(担当理事)がその両サイドに関与しようとしており、利益相反の可能性があることを指摘しましたが、これに関連して東大では不思議な動きがありました。監督サイドのメンバーの1人であった産学連携担当理事が異動となり、後任には学外出身の別の理事が就任したのです。
もちろん後任の方は経歴的には非常に立派な方であり、一見すると監督サイドの強化に取り組んだ人事異動にも見えるのですが、色々と情報を収集するとどうも現実はだいぶ違う可能性があります。
そもそも巨額の公費による産学連携型の出資事業であるこのプログラムを運営するに当たり、産学連携担当理事は、執行サイド、監督サイドのいずれの立場に立つにせよ、非常に高度の専門性が要求されます。大学発ベンチャーが対象なのでシーズ段階の技術に投資することを考えると、技術や研究者に対する知見・眼力、ベンチャーキャピタルに関する金融的な知見、更にはベンチャーの経営に関する知見が必要です。また、官製ファンドであることを考えると、公共政策に関する高度な知見も必要となります。