3つの要因が国際化に与える影響とは何か

 まず、第一のマクロ的な要因の研究では、特定の国家や市場が持つ独特の特徴と、国際化を果たしていく企業の行動との関係性について議論しています。

 ある国、たとえば日本の特殊な雇用慣行や、その人々が共有する文化や常識が、どのようにその国の企業の国際化に影響するか。また、国際化を果たしていく企業が、逆にどのようにそれが存在する国や市場に影響を与えるかについても考察しました。

 その結果、マクロ的な要因としては、国際化しようとしている企業が生まれ育つ環境が、その企業の国際化の行動様式に影響を与えると説明しました。そしてとくに、急速に国際化を果たす企業は、既存の理論では十分に説明のつかない動態を取る、つまり、環境要因に影響されないことがあり、だからこそ急速に展開できるという結論を導いています。

 また、第二のミクロ的な要因の研究では、企業が置かれているミクロな環境に着目し、それがどのように企業の国際化の開始タイミングと、その展開の速度に影響を与えているかを考察しました。この研究では、すでに数多くの論文に引用されているが、しかし実証研究では検証されていない理論的な枠組みを実証データで検証し、それをさらに発展させた理論的枠組を提示しています。

 結果、ミクロ的な要因としては、企業同士のつながりや、起業家同士のつながり、そしてそのつながりが存在する業界の特性などの要因が、国際化を行う企業の行動様式(とくに国際化のタイミングとスピード)に影響を与えると主張しています。

 そして、第三の内部要因に関する研究では、企業の内部の1人ひとりの能力や知識が、どのように企業全体の能力や知識に結びついているかを、急速に国際化を果たす企業を題材に実証分析しました。

 ここでは、急速に国際化を進めることができる企業と、それができない企業の間で、個人レベルの能力を組織レベルで「仕組み化」する過程にどのような差があるかを検討し、その「仕組み化」の重要性を指摘しています。

 そこから、内部要因としては、個人レベルの知見や能力を、組織レベルの知見や能力に組織化していく力の優劣の差が、国際化のタイミングやペースに影響を与えると論じています。これは戦略論や組織論の世界ではすでに長く議論されているため、そこでの議論を援用し、これが急速に国際化を果たす企業と、そうではない企業の特徴的な違いであると主張しました。

 そのうえで、これらの3つの分析レイヤーの知見を相互に接続し、それらを総合的に捉えて議論することで、企業がどのように国際化するのかについて、より細密かつ適切な理解につながると主張したのが、私の博士論文です。