博士論文は出発点だが、研究者人生を支える基礎でもある

『領域を超える経営学』の第1章では、「経営学の二面性」について説明しました。

 博士論文というのは、社会科学としての経営学に貢献することを主眼とした作品です。そのため、実務家の方々から見ると、まどろっこしくて、わかりにくいと感じられたかもしれません。これは「そういうもの」として理解いただければと思います。

 さらに言えば、私の作品は、主流に反して定性的な研究を多用することで、かなりの冒険をしました。結果として、それぞれの研究が、少なくとも世界的に権威のある学会の査読を軒並み通過しており、すばらしい発表の機会を得られたことは嬉しく思います。

 しかし、きちんと学会で発表できるのか、自分自身も不安であったほど、未開拓の領域を扱った主張でした。そのため、この論文の価値はまさに未知数であると言えます。

 ただ実際のところ、博士論文は、単なる出発点に過ぎません。国際学会での発表も、厳密には業績にはなりません。

 そのため、この作品の成果も再度磨き込みを行い、国外で正式な学術論文として発表する作業にとりかかっています。首尾よく論文として発表できることとなった暁には、再度編集して英語の学術書としても出版する予定です。

 繰り返しになりますが、博士論文は出発点に過ぎません。しかし同時に、1人の研究者にとって、それからの長い研究者人生の礎となるべき作品である、と私は考えています。

 だからこそ、その作品がやっつけ仕事に見えたり、あり得ないことにも剽窃が度を越して目立つのであるならば、そのような研究者が世紀の大発見をするとは、どうしても思えないのです。

 まどろっこしい話におつき合いいただき、ありがとうございました。

 それでは、また次回。

オックスフォード大学で世界の経営学の最先端と向き合うなかで、日本と欧米の経営学にはある違いが存在することに気がついた。その違いとは何か、なぜ違いが生まれたのか、第9回ではさらに踏み込んで経営学を探究する。次回更新は、3月20日(木)を予定。


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