先日、同僚たちと中国料理の宴をもった。前菜に菊花があったのを見て、「後でヘビが出るよ」といったら皆が驚いていたが、香港か広州だったらジョークでも何でもない風習である。菊花は季節を象徴するから、重九の節句(陽数の重なる九月九日。旧暦なので十月になる)等にも使われるが、ヘビ料理にもつきものである。刺身のツマとかワサビのような存在だ。
蛇羹(蛇肉の繊切りと鶏肉の繊切りとフカヒレのスープ)には菊の花弁をパラパラとふりかけるものだし、他のヘビ料理にも菊を使う。ヘビ肉はくせが少ないので、あらゆるジャンルの食材として利用されるし、特に南中国の人々には好まれる。他の食用動物よりも高く取引されるのもそれだけ賞味されているからである。
菊花がヘビ料理の象徴になった背景には、一部の種類が臭気を発することがあるから、その匂い消しに使われたというようなのも考えられる。例えば、その名もシュウダ(臭蛇)などというアオダイショウの親類がおり、これがよく食用に利用されてもいるから、実用的な関係があったことは否めない。しかし前処理をすれば匂いなど気にならなくできるし、一般的にはヘビ肉は悪臭など無いから、菊花との結びつきは必然ではなさそうだ。
「三蛇羹」の缶詰 |
これはたぶん、季節つながりである。冬眠前のヘビに脂がのっているであろうことは誰でも思いつき、納得できる話だろう。日本では「天高く馬肥ゆる秋」というが、広州や香港ではヘビが秋のサインでもある。土用の丑の日の鰻の如く、秋にはヘビ食のポスターを見かけるようになり、それにこう書いてある――「秋風起矣、三蛇肥矣、滋補其時点」と。意味は、「秋風が吹き、三蛇に脂がのってきたよ。滋養をつける時期だよ」である。つまり秋だからヘビを食べよう、というわけで、秋を象徴する菊花と相乗効果をもたせた、と私は考える。