「仕事では、B社の方が、いきいきやれると思うの。C社の地元で働けるメリットとどちらを優先するかなの」

「B社だと、お父さんと同じ業界だから、仕事のことは色々聞くことができるわ」

「それはあまり重要じゃないよ。ただ同じ業界というのは、偶然なのかなぁ?」

「やっぱり親子だから似ているんじゃない」

「たしかに裕美がB社に興味を持った理由が、自分の就活の時と同じなので驚いたね」

「お父さんは、経済や社会のことを整然と話せるので『いいな』と思ったことはあるの」

「仕事について、お父さんはどう思うの?」

「おそらくB社の方が大変だけれど、その分鍛えられる。C社のほうが、仕事とプライベートの両立がやりやすい、って感じかな。あくまで一般論だけど」

「結局、裕美はどうするの?」

「やはり地元で働けるC社にするつもりなの」

「決めたのなら早く連絡した方がいい。ただ気持ちが揺らいだまま、会社に足を運ぶのが一番良くないぞ。皆に迷惑をかけるから」

「わかっている。でも色々考えると迷ってくるの」

「あまり気にかけないで、きちんと話せばいいわよ」

「『もう他社は廻らないね』って、リクルーターから念を押されたので、後ろめたい気持ちもあるの」

「そこは、言い訳をせずに『申し訳ありませんでした』って頭を下げるんだ。決めた理由は堂々と話せばいいんだ。」

「会社に拘束されたりすることはないわね?」

「当たり前だ。引き止めや説得はあっても、本人の意思を曲げることはできないから。ただお世話になったので、誠意を持って説明することだね」

「とにかく明日、リクルーターに連絡するつもり」

はB社の担当リクルーターに「お話したいことがあります」とメールを送った後に、電話で概略の説明をした。その翌日、B社を訪問した。

■4月25日

 出身大学のリクルーターの責任者と小さな会議室で話した。

 娘は、祖母が大きな手術を受けて入院したこと、退院後に介護に取組む父と母の姿を見て、親の近くで働きたくなったことを率直に述べた。

 実際、退院した直後は大変だった。夜は、私が実家に泊まってそこから通勤、昼間は妻が毎日世話のために実家に通った。その間、娘が家事をすることもあった。

「今回の件で、家族が大事だと改めて思いました。それまでは転勤も覚悟して仕事中心に頑張るつもりでしたが」

「そういう理由なら仕方がないですね。最後に決めるのは楠木さんですから」