(1)社長の言われる趣旨はよくわかった。前工程の鋳造課の技術が低いと森山課長が言ったことについて、別にしこりは持たない。

 (2)しかし、森山課長の見方は間違っている。当社の鋳造技術のレベルは、決して業界の平均以下ということはない。当社は創業以来、技術の太宝と称してきたほどの会社である。

 (3)ただ当社の技術のなかで現在もっともレベルが低いのは、方案の設計技術である。
 3年前の人員削減措置のとき、59歳と57歳の名人芸ともいうべき設計技術者をやめさせた。
 以後彼らに代わるほどの技術者が育ってない。
 方案が悪ければ、鋳造課がいかにあがいても良い製品はできない。

「つまり、鋳造課の前工程の設計課に問題があるというのだな」
「そうです」

 阿部は悲しそうな顔で返事をした。
 阿部課長を帰したあと、沢井はすぐ設計課長の安川孝を呼んだ。夕方になっていたが、もう放ってはおけなかった。