「それじゃ、ほとんど寝る時間がないですね」

「そうですね、当時は睡眠時間3時間くらいで働いていました」

「休みは?」

「集金作業などもあるので、月に1日か2日休めればいいかなというくらい」

 そんなこんなで顧客の数は一気に3倍から4倍に増えたものの、それに反比例するかのように、神谷さんの体重は一時、38キロまで減ってしまった。

追い風にみえる高齢化と過疎化
実際は“逆風”が神谷さんを襲っていた

 さすがに、「このままの生活を続けていては命を削る」と、危機感をおぼえたらしい。

「それで、途中からはなるべく無理をしないで、自分の作ったコースに次々と人を入れて、配達員を増やしました」

 昔ながらの家族経営が性に合っている両親との軋轢は激しくなった。

「成り行き上、私が森永のお客さんを開拓して、両親が昔ながらの雪印を担当していたんです。で、森永のお客さんが増えると、『うちのメグはどうなるんだ』と不機嫌になる。そんなこんなで、両親とはいつも意見が対立していました」

 週3回だった配達を週2回に切り替えるときも、両親には猛反対に遭ったそう。結局、週2回の配達に切り替えたのは2年前、父親が亡くなってからだ。現在は「月、金」と「火、金」の2パターンに分けて、商品を宅配している。

「つかぬことをお聞きしますが、牛乳販売店のビジネスってどうなんでしょうか?」

 インターネットで検索すると、なかなか楽しそうに配達をしている姿が紹介されていたりして、そう悪いビジネスではないのかな、という印象も受ける。高齢化と過疎化に伴い、宅配ビジネスは今後も成長が期待されている分野。市場が拡大し、事業者数が減っているということは、一事業社あたりの売上高が増えている、ということも考えられる。

「それが、そうでもないんですよ」と、神谷さんがため息をつく。

「お年寄りの見守りも兼ねた牛乳配達って、見直されているんじゃないですか?」

「それも、最近は神話になりつつありますね」

 神谷さんが続ける。

「じつはこの商売、新規にお客さんを開拓しても、長くとり続けてもらわないと利益にならないビジネスモデルなんです」