領土問題や歴史認識問題の影響で、かつてなく冷え込む日中・日韓関係。中国や韓国は日本にとって重要な経済パートナーの1つだが、政治・外交上の思惑が複雑に絡み合う現状では、関係改善に向けてすぐに大きな進展は望めそうにない。日本政府の公式見解とされる「村山談話」を自身の内閣で閣議決定し、90歳となった今でもアジア諸国との関係構築に力を注ぐ村山富市・元総理大臣は、そんな現状を憂う要人の1人である。日中・日韓間に横たわる本質的な課題とは何か。豊富な知見を基に、広い視野からアジア外交の要諦を語ってもらった。(取材・文/ダイヤモンド・オンライン 編集長・原英次郎、小尾拓也、片田江康男、撮影/宇佐見利明)

以前から燻っていた日中・日韓の
火種がことさら大きくなっている

むらやま・とみいち
社会民主党名誉党首。1924年生まれ。大分県出身。旧制明治大学専門部政治経済科卒。1955年より大分市議会議員(2期)、大分県議会議員(3期)を務め、1972年第33回衆議院議員総選挙に日本社会党から立候補し、初当選。以後通算8回当選。社会党では国会対策委員長、党委員長を歴任。1994年自民党、新党さきがけとの連立内閣で第81代内閣総理大臣に就任。現状では、大正時代生まれとなる最後の総理大臣経験者。総理退任後も社会民主党党首(初代)、社会民主党特別代表(初代)、「財団法人女性のためのアジア平和国民基金」理事長などを歴任。政界引退は2000年、同年桐花大綬章を受章。

――村山さんは総理在任中から、中国や韓国をはじめとするアジア諸国との友好関係を構築すべく、尽力されてきました。現在の日中・日韓関係をどう見ていますか。

 領土問題をはじめ、日中・日韓間には以前から火種が燻っていましたが、第二次安倍政権になってから、それがことさら大きくなっている印象です。安倍総理はかつての村山談話や河野談話に公然と疑問を呈したり、靖国神社への参拝を行ったりしていますが、それらの行動が日中・日韓関係を冷え込ませている大きな原因の1つだと思いますよ。

――1995年8月に村山内閣が発表した「村山談話」(村山総理大臣談話)の中で、村山さんは中国、韓国などのアジア諸国に対して、戦時中の植民地支配や侵略を認め、謝罪しました。談話の要旨は、「日本は植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えた」「痛切な反省の意と心からのお詫びの気持ちを表明する」というものでした。これは、日本政府の公式の歴史的見解となっています。当時、この談話をどんな気持ちで出されたのですか。

 僕は以前から、日本は歴史的にも地政学的にもアジアの一員だという認識を持つべきであると思っていました。とりわけ韓国や中国は、一衣帯水の関係にある隣国であり、日本との交流も深かった。日本の今日の文化、芸術、宗教など、全ての分野に深いつながりがある。そりゃあ、仲よくしていかなければいけないでしょう。