本当に私のせいなの?

「カラーリングでかぶれた? 病院には行ってもらったか? こちらからも連絡しておきなさい」

 新人美容師の福井良美はチーフから指示を受け、顧客リストから深田佳子の名前を探し出した。そして、おそるおそる電話をかける。

「深田さんですか? このたびは申し訳ありませんでした。お加減はいかがですか?」
「やっぱり、ヘアカラーの薬液が原因だそうよ。今日、会社を休んだわ。明日も出勤できないと思う。ねえ、どうしてくれるの?」
「誠に申し訳ありません」

 丁寧にお詫びしたつもりだったが、深田の刺々しい声が返ってきた。

「治療費と休業補償、きちんとしてね。慰謝料も払ってもらうわ。だって、あなたたちの責任なんだから。カラーリングの前には、パッチテストしなきゃいけないんでしょ」

 この言葉を聞いて、福井はうろたえた。

〈休業補償? 慰謝料? なにそれ? パッチテストなんかどこのサロンもやってないじゃない〉

 電話は一方的に切られた。福井は受話器を持ったまま、深田との雑談を思い出した。

〈たしか、こんな話をしていたわ〉

「私、会社でマーケティングを担当してるの。今度、ヨーロッパを視察してくるわ」

〈すごいやり手かもしれない。裁判で訴えられたらどうしよう〉

 福井はだんだん怖くなってきた。