日本の2020年までの温室効果ガスの削減目標(中期目標)について、鳩山由紀夫・次期首相が7日の講演で「1990年比で25%の削減」と、現政権のそれ(90年換算で8%の削減)を塗り替えると発言し、内外に波紋が広がっている。海外から鳩山礼賛の声が多く寄せられる一方、国内の経済、労働界から強い反発が出ているのだ。
しかし、冷静にみると、この発言は異常ではないだろうか。というのは、肝心の国内のコンセンサス作りを何もしておらず、対外的なパフォーマンスを優先した格好となっているからだ。
ちなみに、鳩山案は、今年1月の政権獲得以来、精力的な国内調整を進めているオバマ米大統領の削減案(1990年基準に換算してプラスマイナス0%)も大きく上回る。
現政権の試算(真水ベース)に照らすと、鳩山案達成には、1世帯当たり22万から77万円の可処分所得の減少をはじめ、最低でも36万円程度の経済負担が必要だ。低所得者の負担を軽減するには、環境税新設のような所得の再分配が不可避とされるが、経済危機の最中にこうした重い負担増に国民が耐えられるとは到底思えない。
民主党政権の外交デビューにあたって、真に意味のある温暖化予防策を提言し、世界に対して新政権の力強い指導力を印象付けようとするのなら、もっと外交的に意味のある提案は他にいくらもあったはず。例えば、筆者の持論である、温暖化ガスの人口1人当たり排出量の上限を決めて、国力に応じ、その達成年の目標を定める手法などは、その一案だ。鳩山発言の拙速さは、真に残念である。
国連関係者は鳩山氏を
諸手を挙げて歓迎するが
次期首相が発言したのは、朝日新聞社が都内のホテルで主催した「朝日地球環境フォーラム2009」だ。このフォーラムは、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)のイボ・デブア事務局長、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のラジェンドラ・パチャウリ議長らも参加する国際的なもので、鳩山次期首相はこの場でオープニングスピーチを行った。
民主党や朝日新聞によると、次期首相は「政権交代が実現することとなった今、私は、世界の、そして未来の気候変動に対処するため、友愛精神に基づき国際的なリーダーシップを発揮していきたいと考えています」と前置きした。そのうえで、中期目標について「2020年までに1990年比25%削減を目指します」と明言した。
そして、この中期目標の達成を、「(マニフェストに掲げた政権公約であり、)政治の意思として、あらゆる政策を総動員して実現をめざしていく決意です」と強い調子でコミットしたというのだ。