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不器用だけど一生懸命――沖縄の焼き肉店、キングコングが実践する、ゆがんだ社会や組織を治すヒント

齊藤義明 [ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]
【第19回】 2014年6月12日
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不器用だけど一生懸命。
“BIメンバー”が職場の文化を揺さぶる

 NSPでは、障がい者のことを「BIメンバー」と呼んでいる。「不器用だけど、一生懸命」の略である。現在、ナガイ産業では4店舗80名の従業員中、11名が病気や障がいのために社会に適応しにくい人たちである。「就労のサポートが難しいとされる統合失調症の方でもいきいきと働ける職場を作ることができれば、他の障がいも含めてユニバーサルに通用すると思っています」と仲地さんは語る。

 BIメンバーの一人、真喜志竜次さんはキングコングに入社したとき、「俺は、洗い場しかできない」と言い張っていたという。親御さんもそう言うので、本人も信じ込んでいるようで、「皿と自分しかない世界」に閉じ籠ろうとしていた。だが、キングコングの大石英吾店長は彼を見ていて「それは違うんじゃないか」と感じ、いろいろな仕事をやってもらった。大石さんには障がい者に関する医学的な専門知識はない。だからこそ常識に凝り固まらずに真喜志さんの可能性を信じ、何でも頼んでみた。真喜志さんはしだいに「人の世界」にも積極的に関わっていくようになり、今ではお客様から大人気の店員となっている。

 ここからが面白い。その様子を見ていた他のBIメンバーが真喜志さんに嫉妬し、より大きな声で接客するようになったのだ。互いに競争するようにして職場に活気と意欲が満ちていった。真喜志さんは最近、大石店長に向かって次のように言ったそうだ。「俺の記録より、組織の記録の方が大事」。そう語る大石さんの目には涙が浮かんでいた。「人の成長に関われることが嬉しい」。

 そんな大石さんでさえ、最初は、障がい者に対する偏見が人一倍強かったと隠さずに話す。だが一緒に仕事をする中で、「良いものは良い」と思えるようになった。「障がい者には裏表がない。仕事に向き合う姿勢が真摯で一途である。労働観についていえば、むしろ私たち健常者の方に疑問を感じる」とさえ言う。

BIメンバーと健常者が一緒になった経営勉強会

 キングコングでは週1回、2時間ほどの経営勉強会を継続的に実施している。店長の大石さんが講師やファシリテーターになり、統合失調症や自閉症の従業員も混ざって、一緒に勉強をする。内容は、お店の経営と実践に関わることや、それぞれの人生や生き方に関わることの2つである。大石さんが丁寧にゆっくりと、極めて本質的なことを従業員たちに伝え、対話している。

 もちろん普通の会社の会議のように効率的にはいかない。自分の意見を言う順番が来ても、何もしゃべらない従業員がいる。狭い部屋を静寂が支配するが、みんな、何かを信じているかのようにじっと待っている。目を見ればわかる、何かを考え、しゃべろうとしている。そんな努力の途中に口を挟む人はキングコングの従業員にはいない。

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齊藤義明
[ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]

ビジネスモデル研究者、経営コンサルティング会社勤務。政策・経営コンサルティングの現場でこれまで100本以上のプロジェクトに関わる。専門は、ビジョン、イノベーション、モチベーション、人材開発など。

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未来のパターンを作り出す企業は、はじめは取るに足らないちっぽけな存在だ。それゆえに、産業の複雑な変化の過程で、その企業はときに死んでしまうかもしれない。しかし個別企業は死んでも、実はパターンは生き続け、10年後、20年後、新しい現象として世の中に広がる。2030年の日本につながる価値創造のパターンとは何か。現在さまざまな領域でその萌芽に取り組む最前線の挑戦者たちとのダイアローグ(対話)。

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