クレーマーの中には、はじめから金銭や特別待遇を狙った「詐欺まがい」の者や、小さなミスをあげつらって過大な要求を突きつけてくる剛腕もいる。こうしたケースで、巧妙なワナに引っかからないようにするポイントと、毅然と対応するための実践テクニックを伝授する。
「計画通りだ! 万札が手に入る」
松田健太は、持ち帰った小包の梱包を解いた。きれいな花瓶が姿をあらわす。思わず、笑みがこぼれる。
〈これで一儲けできるな〉
花瓶を取り出すと、ヤスリで挿し口に小さなキズをつけた。そして、携帯電話から電話をかけた。
「お宅で花瓶を買ったんだが、挿し口にキズがあるじゃないか。返品する!」
電話に出た女性が答える。
「さようでございますか。それは申し訳ございません。すぐにお手続きをさせていただきますので……」
松田は女性の言葉をさえぎる。
「いまから持っていくから、カネの用意をしておけ!」
「はい、かしこまりました」
松田の厳しい口調に、声が震えている。
松田は東京・赤坂にある陶器専門店に入ると、まず店内を見回した。客は、一組の老夫婦と数人の女性、それに陶芸家らしき老人が一人。
〈ちょうどいい数だ。ギャラリーの面子もまあまあだ〉