表情が険しくなった松田を前に、店長はオロオロする。

「タクシーですか? ……どちらから、いらっしゃったんでしょうか?」
「所沢だ」

 松田は適当に答える。本当は、渋谷から地下鉄で15分だった。

 店長は一瞬、迷ったが、「タクシー代をお支払いします」と提案する。

 松田は〈しめた!〉と思った。あとは、相手を徐々に追い詰めていけばいい。

「そんなことは当たり前だ。それより、この花瓶は大切なクライアントから頼まれて買ったものだ。それがこのざまだ。大恥をかいた。これで商談もパーだ」

 そして、松田が怒鳴り声を上げた。

「どうしてくれるんだ! どう責任をとってくれるんだ!」

 店長は動揺が隠せない。

「そのようにおっしゃられても……」
「だから、どうするのかと聞いているんだ!」

 ここで松田は口をつぐむ。店長は明らかにおびえている。松田は、頭のなかで〈1、2、3、4、5〉と数えると、ドスの利いた声で追い打ちをかけた。

「はっきりしろ!」

 店長は、完全にパニック状態である。

「どうすればいいんでしょうか?」